英国の分断、米国の孤立

2017/06/09

「賭け」が裏目に

英国は、政治と安全の両面で試練に見舞われています。それを印象づけたのが、昨日の総選挙です。

結果は、メイ首相率いる保守党が第1党を維持しつつも、過半数には届かない模様です(定数650議席のうち、316獲得の見込み。改選前330)。これらを受け、ポンドが軟調となっています。

特筆すべきは、ジェレミー・コービン氏を党首とする野党・労働党の躍進です(265獲得の見込み。改選前229)。メイ氏は圧勝を目論んで解散総選挙を決断しましたが、その「賭け」は裏目に出ました。

深まる分断

政局が混乱すれば、ブレグジット(英国の欧州連合(EU)脱退)の行方が一段と不透明になります。

これについては、今月中にEUとの交渉が始まる予定です。しかし保守党内でも、EUとの距離の置き方などで温度差があります。求心力が不安視されるメイ氏が、それらを糾合するのは至難でしょう。

また今回、労働党が健闘したのは、所得再分配や鉄道国有化など、「左寄り」の策が若年層の支持を得たためです。それが表わすのは、年齢や所得水準による分断、並びに反資本主義の風潮です。

テロと戦うには

英国などで非道なテロ攻撃が相次いでいるのも、そういった階層分断と無関係ではなさそうです。過激なテロ思想に染まる人の多くは、何らかの理由で、社会から疎外されたと感じる人であるからです。

テロとの戦いでは、英国人が誇る不屈の精神が示されています。しかしテロの根底に潜む社会問題には、現在、誰も決定的な解決策を提示できません。むろん、武力だけで勝利できる戦いではありません。

さらに、テロ組織は、国境を越えたネットワークを築いています。それに対抗するには、信用し得る国々の主導のもとで、政治・経済における体制の違いを超え、国際的に団結することが欠かせません。

米国はリーダーシップを放棄

ところが、世界のリーダーを自認してきた米国の信用は今、大きく低下しています。それを加速させたのが、トランプ大統領による先週の「パリ協定(気候変動に関する国際的な合意)」離脱宣言です。

たしかに、温暖化をめぐっては一層の研究が求められます。また、米国は直ちに協定から離脱するわけではありません。加えて、多くの米企業や州は、引き続き温暖化防止に向けた取組みを行う方針です。

問題は、米政権が世界の協調機運に水を差したということ自体にあります。パリ協定には、イランや北朝鮮すら署名しています。それは国際的な結束が不可能でないことを表わす、ほぼ唯一の希望でした。

経済は安定しているが、油断は禁物

米国のパリ協定離脱宣言には、日本の政府や主要メディアも厳しい論評を行っています。このようなことは、戦後日本ではめったにありませんでした。それだけを見ても、米国の信用失墜は明らかです。

それでも世界経済は、しばらく拡大するでしょう。金融市場も、パニックには程遠い情勢です。しかし、その背後では戦後最大級の激変が生じているということを、決して見過ごせません。近代資本主義を先導した英国で急進左派が支持を得ているのは、その一つです。そして何より、地球規模の難題に面して各国の連帯がますます急務となる中、冷戦後の世界をリードした米国は、自ら孤立を選んだのです。

 

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