フランスが死守したもの

2017/05/10

マクロン氏勝利の意義

7日の大統領選挙で勝利したフランスのエマニュエル・マクロン氏は、熱意あふれる演説を行いました。強調されたのは、フランス革命(1789年~)以来の標語「自由、平等、博愛」です。

一方、排他的で攻撃的な極右、マリーヌ・ルペン氏は、十分な支持を集めることができませんでした。

フランスは、近代民主主義の方向を決定づけた国です。そのような国でリベラルな精神が死守されたこと、これこそが今回の選挙における大きな意義でしょう。開かれた世界経済にとっても、吉報です。

欧米の自信

特に安堵しているのは、金融市場に加え、西欧の主な首脳やリベラルな知識人です。トランプ米大統領の誕生という衝撃などのため、欧米の基本的な価値観に関し、自信が揺らいでいるからです。実際、トランプ氏の権威主義、ルペン氏の閉鎖性は、欧米を発祥地とする近代民主主義の理念に反しています。

しかしながら、そのような理念は、まだ失われていませんでした。そのことを、極右政党が伸び悩んだ3月のオランダ総選挙、そして今回のマクロン氏勝利は、あらためて証明したと言ってよいでしょう。

日本も歓迎

日本なども、フランスの民主主義が守られたのを歓迎すべきでしょう。世界では、民主主義への理解を欠く国が多数あります。そういった意味で、欧米は参考とすべき対象であり続けて欲しいものです。

ところがトランプ氏や欧州極右による独断的で非寛容な姿勢は、世界に対し、悪い見本となりかねません。つまり、権威主義的な政権が国民を抑圧または監視するような動きに出たり、国粋主義的な勢力が他国を誹謗中傷したり、といったことを勢いづかせるところでした。しかし、トランプ政権の若干の柔軟化や欧州極右の相次ぐ敗北によって、そうした動きは、勢いがひとまず鈍るものと期待されます。

単純な満足は誤り

ただし、トランプ旋風や欧州極右は全否定された、と満足するのは誤りです。それらが掲げるポピュリズム(大衆迎合主義)、反グローバリズム、反エリートなどには、耳を傾けるべき部分もあるからです。

ポピュリズムについて言えば、大多数の国民のための政治を行うこと自体は、正しいことです。批判されるべきは、目先の人気取り政策(異様な金融緩和を含む)です。また、グローバリズムについては、たしかに世界的な格差拡大の一因です。よって、各国は分配政策の見直しを怠れません。

決着は5年後

フランスでは、6月11日、18日の国民議会選挙が次の焦点です。ここでマクロン氏に賛同する勢力が過半数を確保できなければ、政策運営は難航し、高い失業率を改善するのも難しくなるでしょう。

逆に十分な議席を得ても、富裕層好みの政策(労働規制の緩和や法人税減税など)に傾斜しすぎれば、反発が必至です。そして5年後の選挙では、ルペン氏、あるいは急進左派が、政権を奪取するかもしれません。それは「打倒エリート」という点で、「第2のフランス革命」と呼ばれるものになるでしょう。

とはいえ聡明なマクロン氏は、それらの危険をよく承知しているはずです。極右を拒んだ有権者の良識にも期待できます。よって当面、新鮮な大統領の誕生を、世界や金融市場は素直に喜べるでしょう。

 

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