独裁への道
トルコの歴史的な国民投票
北朝鮮問題は、それぞれの国が、国民の関心を内政からそらそうと利用している面もあるでしょう。
それに対し、世界では多くの実体的な激震が走っています。その一つが、トルコの政治です。16日、この国で歴史的な国民投票が行われました。それはトルコと世界に対し、不吉な影を落としています。
これは、憲法改正案の賛否を問うものでした。この案が成立すれば、大統領が絶大な権力を振るうことが可能になります。もっとはっきり言うと、エルドアン現大統領による、独裁への道が開かれます。
結果は僅差
投票の結果は、改憲賛成が51%と、エルドアン支持派が勝利しました。これを受け、2019年秋には新憲法が全面的に適用されます。しかし、大差の勝利を狙ったエルドアン氏にとって、際どい僅差です。
トルコでは、昨年7月のクーデター未遂の後、非常事態宣言が発せられています。そのもとで、エルドアン氏は政権批判を不当に弾圧しています。改憲反対派は、集会や宣伝を著しく制限されました。
にもかかわらず、49%の人が改憲に反対しました。特に、首都アンカラや最大都市イスタンブールでは、反対票が上回りました。エルドアン氏への強い反発、およびトルコの深い分裂が示されたのです。
エルドアン大統領の「やりたい放題」に
同氏は、こうした状況に危機感を持つでしょう。よって今後、言論弾圧が和らぐとは考えられません。
この点、同様に強権的なトランプ米大統領は、最近、態度の修正を迫られています。しかしこれは、米国の民主的な伝統と仕組みのなせるわざでしょう。トルコの場合、そうした仕組みが強くありません。
というより、それを弱めるのが今回の改憲であり、新憲法が全面適用されれば、裁判所の人事、議会の解散権などを大統領が掌握します(首相職は廃止)。エルドアン氏の「やりたい放題」となるでしょう。
人と市場は、なぜ独裁を許すのか?
ただしエルドアン氏には、根強い人気もあります。トルコでは、テロとの戦いなどを強いられる中、強力なリーダーを望む人も多いのでしょう。経済でも、2003年に同氏が実権を得た後、国民を苦しめてきた高インフレの制御を成しとげました。また、インフラ整備や外資誘致にも積極的です。
そのような経済政策は、金融市場でも相応に評価されています。よって政治の独裁化といったことは、相場の悪材料とは限りません(一般に、市場は倫理や人権には無頓着です)。実際、通貨リラは、昨年のクーデター未遂後に大きく下落した後、国民投票前後は、比較的安定した動きを見せています。
憂慮される「文明の衝突」
問題は、欧米との関係です。イスラム過激派のテロと戦う上で、また、シリア難民に対処するためにも、欧米とトルコとの連携が欠かせません。しかし、とりわけ欧州は、独裁色を強めるトルコとは距離を置こうとするでしょう。トルコは欧州連合(EU)加盟を望んでいましたが、もはや論外でしょう。
トルコは、欧州と中東・アジアに挟まれた「東西文明の十字路」です。また、イスラム教国でありながら寛容さも備え、イスラム教が他文明と共存できる可能性を示す存在でした。そうした国が独裁政へ後退し、西欧との断絶を深めていくとすれば、文明論的には、北朝鮮問題に劣らず憂慮すべき不幸です。
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