便利なブレグジット
メイ首相の気配り
先週、英国のメイ首相が欧州連合(EU)あてに重要な手紙を送りました。EUから脱退する方針を、正式に通知するものです。交渉期限である2年後、いよいよ英国は、EUからの「独立」を果たします。
この手紙からは、EUへの細かな気配りが読み取れます。英国は昨年6月の国民投票で、EU脱退(ブレグジット)を選びました。しかしそれは欧州共通の価値観を否定するものではない、と主張されています。そして英国は、今後も欧州諸国の同盟国として、EUの成功と繁栄を願っている、とのことです。
同時にメイ首相からは、ブレグジットをチャンスへ変えよう、という高揚した意気込みも感じられます。この手紙でも、英国はEUから脱退して自ら決断する権利を取り戻す、との決意が表明されました。
EUの冷ややかなスタンス
様々な感情がにじみ出ている英国からの手紙とは対照的に、EU側の態度はあくまでも冷ややかです。
その手紙に呼応しEUのトゥスク議長は、ブレグジットに臨むEU側の方針案を示しました。ここでは、交渉の原則や手順が淡々と列挙されています。印象的なのは、EUの利益を優先するスタンスです。
英国とEUには、基本的な交渉方針に関し大きな隔たりがあります。英国としては、脱退交渉と並行して脱退後の通商関係を協議したいところです。他方EUは、まずは脱退条件(英国が負うEU拠出金の精算や、英国に居住するEU加盟国民の権利保護など)の協議に専念したい意向です。たしかに2年間という交渉期間で、脱退条件に加え通商協定の締結まで漕ぎつけるのは、まず時間的に無理でしょう。
英国の譲歩が不可欠
いずれにせよ英国とEUとの交渉は、スムーズには進まないことが最初から宿命づけられています。
英国としては、移民制限などを実現しつつ、相互の貿易・投資に関し可能な限り優遇措置を確保することが理想です。しかし英国にとって痛みの少ない形に落ちつけば、ほかの国のEU離脱派を勢いづかせます。よってEUが英国に対し冷めた態度をとるのは、嫌がらせというより、自己保存上、当然です。
結局、より多く譲歩せざるを得ないのは英国でしょう。交渉が決裂すれば、特に英国・EU間の輸入関税が急に引き上げられるでしょう。その場合、英国の方が深刻な打撃を受けます。英国の輸出のうち対EUは5割近くを占めるのに対し、EUの英国向け輸出は1割以下にすぎないからです。
英国の危機は日本の危機か?
それでも英国は、EUに依存しすぎた関係を、アジアなどへ広げる好機とすることができるでしょう。
ただし英国には、国家分裂という危機も待ち受けています。英国の「構成国」のうち、スコットランドなどでは、EU残留派が多いためです。その独立運動が再燃するのは必然でしょう。「独立」をEU脱退の意義に掲げる以上、スコットランドの独立を拒絶する根拠が弱くなってしまったのです。
以上のように、英国をめぐる情勢は極めて不安定です。ただ、日本にとっては便利な面もあります。景気がさえないとき、日銀などは「欧州の政治リスク」のせいにできるからです。しかしブレグジットは本来、主に欧州内の、長期のテーマです。よって日本経済への悪影響を強調しすぎるのは、誤りです。
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