ナショナリズムという世界経済のリスク

2017/03/01 <>

世界経済は堅調だが

世界経済は今年、昨年より高い成長率が見込まれます。米国株などの上昇も、不合理と言い切れません。

米国はトランプ政権の景気刺激策に頼らなくても、雇用拡大などに伴い前年比2%台の成長率を達成できる見込みです。ユーロ圏は1%台半ば、日本は1%前後と、緩やかながらも景気回復が続きそうです。

新興国については、中国では6%台半ば程度の成長が予想されます。また、昨年まで2年連続マイナス成長だったロシアやブラジルも、資源価格の回復などを背景に、今年はプラス成長へ戻る見通しです。

リスクは、ナショナリズムと反グローバリズム

にもかかわらず金融市場は、強気一辺倒ではありません。多くの政治リスクが警戒されているためです。

今年、特に警戒されるのは、欧米政治における極右勢力の躍進、言い換えればナショナリズム(国粋主義)の進撃です。それは多くの場合、時代錯誤の排外的な反グローバリズムと表裏一体をなすからです。

もし標準的な経済学が正しければ、反グローバリズムは経済の効率性を損なうはずです。たしかに、世界貿易が顕著に鈍化した2012年以降、世界経済の成長率も伸び悩みました。そして貿易鈍化に関しては、反グローバリズムの表れと言うべき現象(自由貿易の機運後退など)が一因となりました。

欧州極右は勝利するのか?

今年は、極右勢力と反グローバリズムの盛衰を方向づける、決定的な分岐点となるかもしれません。

さしあたりの注目イベントは、今月15日のオランダ総選挙です。ここでは、反欧州連合(EU)、反移民、反イスラムなどを掲げる極右「自由党」が票を伸ばす見込みです。だだ、政権を奪うほどには支持が得られないでしょう。それでもこの極右が健闘すれば、他国の反EU運動に勢いを与えそうです。

何より、フランスの極右「国民戦線」です。これを率いるルペン氏が4、5月の大統領選で勝利すれば、欧米の多くの知識人は絶望の淵に沈むでしょう。その確率は、20~40%はありそうです。高い失業率などを背景にフランスやイタリアでは政治不信が強いため、極右伸長の余地があるからです。

逆に、ルペン氏が大敗すれば潮目が大きく変わります。米国のナショナリズム運動であるトランプ旋風も、勢いをそがれるでしょう。欧州極右とトランプ旋風は「グローバルに連帯」しているからです。

他人事ではない

欧米においてナショナリズムが経済のリスクとして警戒される中、日本でも騒動が持ち上がっています。

それは、大阪府の国有地売却をめぐる騒動にほかなりません。これに関しては、金銭の問題もさることながら、海外勢を驚かせたのは、渦中にある学園の「愛国教育」です。背後に控える右派団体や、その団体と現政権との関係に触れた報道も、さかんに行われています(米ニューヨーク・タイムズなど)。

愛国思想にも意義はあるでしょう。また日本は人手不足のため、失業の不満が反グローバリズムへ、との動きは限られます。しかし、もしも欧米で極右が大勝すれば、日本でも似た勢力が調子づき、政策へ影響を及ぼす可能性があります。それは景気回復に水を差しかねません。海外の投資家はそれらを好感しないでしょう。よって日本のナショナリズムについて論じるのを、タブーとすべきではありません。

 

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