グローバリズムは米国を不幸にしたのか?

2017/01/25 <>

米国第一主義

トランプ新大統領の「米国第一」主義は、いかなる批判を浴びても揺らがないでしょう。20日の就任演説でも、力強く叫ばれたのは、「米国を再び偉大にする」ために、国内産業を「保護する」ことでした。

ただし、他国がそれを批判するのは無理もありません。自国の国益を優先するのは当然としても、普通は、わざわざ宣言したりしません。国と国との関係は、人と人との関係に似たところがあります。多くの人も、実際には「自分第一」でしょう。しかしそれを悪びれずに公言する人は、まず信頼されません。

トランプ氏は、「米国は、自国を犠牲に他国の産業を豊かにしてきた」とも述べました。この認識のもとで保護主義への転換をアピールしていますが、そうした姿勢は、グローバル化に水を差しかねません。

トランプ氏の誤解

これまで米国は、グローバル化(経済活動などの世界的連携・統合)の旗振り役でした。それが加速した1990年頃以降、先進7か国(G7)の中で経済成長率が最も高かったのは米国です。一人あたりの経済規模も現在、他を圧倒しています。グローバリズムが米国全体を不幸にした、とは到底言えません。

また、トランプ氏が問題視し、他国を攻撃するのは、製造業の雇用が減った点です。たしかに1990年以降、米国の製造業において雇用者数は3割ほど減っています。しかし、生産量は約8割も増えています。より少ない人数でより多くの物が作れるようになった、ということです。つまり、他国のせいで製造業が衰退したとは言えず、雇用減の主因は、機械化などに伴う生産性向上だったのでしょう。

グローバル化と格差拡大

就任演説の後、日本を含め世界中(ロシアなどを除く)の人が、トランプ氏の発言を批判しています。

しかし、同氏を支持する米国人は少なくありません。その背景には、米国社会の歪んだ姿があります。特に、エスタブリッシュメント(権力階級)に支配され、多くの国民が豊かさを享受していないという現実です。そして格差拡大の背景として、グローバル化も(主因ではなくても)無関係ではありません。

とはいえ、いま行うべきはグローバル化を終わらせることではなく、その利益を適切に分配することでしょう。問題の核心は、グローバル化による利益が富裕層や投資家、多国籍企業に偏っている点にあるからです。たとえば、米国の家計資産をみると、8割近くが上位10%の家計に集中しています。

グローバル化は終わらないが

この点で先週、ダボス会議(世界経済フォーラム)にて重要な演説を行ったのが、英国のメイ首相と中国の習主席です。両氏は、グローバル化を進めつつ、その偏りを正すべき、との主張で一致しています。

メイ首相は今週末にトランプ氏と会談し、中国にも近々往訪するようです。各国で、自由貿易の利点を訴えるのでしょう。むろん中国は、これを歓迎するでしょう。米国も、英国との関係強化に前向きです。トランプ氏も、グローバル化自体は否定していません。同氏がもくろむのは、あくまでも「米国第一」の貿易です。また、トランプ家の企業も、世界各地でホテルなどを展開する、グローバルな企業です。

よって、グローバル化の時代は終わらないでしょう。ただし、その偏りや弊害も無視できません。トランプ批判が熱を帯びていますが、同時に必要なのは、トランプ大統領誕生の背景を直視することです。

 

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