混迷の世界における日本の役割

2017/01/12 <>

世界の変化

今年の世界は、基本的な平和が保たれる限り、昨年をやや上回る経済成長をとげると予想されます。

とはいえ新政権が発足する米国を中心に、経済政策や国際情勢には大きな不確実性がつきまといます。そのためドナルド・トランプ氏の発言などをめぐって、金融市場やマスコミはその都度大騒ぎするでしょう。しかしもっと重要なことは、緩やかな成長の背後で着実に進む、世界経済の歴史的な変化です。日本の役割も見直しを迫られますが、それを考えるには、主要国の現況を把握することが必要です。

米欧の分断

米国や欧州は、極めて厳しい疾病を患っています。キーワードで表わすとすれば、「分断」でしょう。

それは、富裕層と低中所得層との分断、エリートと非エリートとの分断、人種の分断、地域の分断など、多岐にわたる分断です。反グローバリズムやポピュリズムに活路を求めても、事態は悪化するばかりでしょう。むしろ、各国が身勝手に振る舞えば、米国と欧州との分断、欧州各国間の分断が進むでしょう。

米欧の経済見通し

にもかかわらず、米欧の表面的な経済指標は、総じて底堅さを示す可能性が高いでしょう。米国の場合、今年の国内総生産(GDP)成長率は2%程度、ユーロ圏は1%台半ば程度の成長率が予想されます。

しかし、絶好調とは言えません。米国では、次期政権の政策が固まり、効果が表れ出すのは今年後半以降です。当面、ドル高が輸出を圧迫する上、金利上昇や政策の不透明感が設備投資を抑制するでしょう。ただ、ドル高による購買力向上は、米国経済を主導する個人消費には好材料です。また、景気が絶好調でない以上、米連邦準備制度理事会(FRB)による今年の利上げは、2回以内にとどまりそうです。

ユーロ圏は、低成長ながらも、3年以上にわたり四半期のGDP成長率がプラスを保っています。失業率は徐々に下がってきています。そのため、民衆の不満が爆発して欧州連合(EU)が瓦解するという、革命的な事態には至らないでしょう。ただし、EU離脱交渉を始める英国の動向には、注意を要します。

アジアの安定

一方、日本や中国をはじめとするアジアの状況は、「安定」というキーワードが当てはまるでしょう。

日本のGDP成長率は、今年も昨年並み(1%前後)が予想されます。世界的にみれば低いものの、安定感はあります。人口減少を止められなかった以上、プラス成長を維持できれば十分なのでしょう。また、日銀のインフレ目標(2%)は今年も達成には遠く、1%以下のインフレ率で「安定」するでしょう。

アベノミクスは結局、期待外れでした。それでも日本株は上がり、当面高値を保ちそうです。つまり、日本社会の分断は米欧ほどではないとはいえ、実体経済と株価との分断に限れば、日本でこそ顕著です。

日本の役割

中国に目を転じると、今年のGDP成長率は6%台半ばになりそうです。鈍りつつあると言っても、米欧や日本に比べれば高成長です。過剰債務などの問題を抱えつつ、旺盛な消費、段階的な市場開放といった傾向に変わりはありません。そして米欧とは異なり、中国や日本は、グローバル化に積極的です。これは大きな強みでしょう。アジア全体の経済規模が米欧を追い越すのは、時間の問題です。

ただし、中国が世界のリーダーになるには、非民主的な政治体制が障害となるでしょう。国際社会において民主主義は、少なくとも建前上、依然として尊ぶべき価値を帯びているからです。

しかし米国は、トランプ氏のもとで専制的な国へ堕ちつつあります。すなわち世界では今、リーダーに適した国が不在です。

そうした中で日本は、「グローバル化」と「民主主義」の両方、さらには「平和」の価値を、堂々と主張すべき立場にあります。混迷の世界にあって日本の役割は、実は極めて重大と言えます。

 

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