米国の衰退をどうみるか?
「米国を再び偉大に」と言うが
ドナルド・トランプ氏の一貫した信念は、「米国を第一」に考え、「米国を再び偉大にする」というものです。しかし長期的に予想されるのは、米国の復活ではなく、むしろ米国の緩やかな衰退でしょう。
とはいえ、向こう1~2年は、景気が良くなったかのように演出されそうです。金融市場のユーフォリア(高揚感)が続けば、米国株もさらに上がるでしょう。ただし、最後のバブルになるかもしれません。
景気は本当に良いのか?
米国の衰退は、突然始まるわけではありません。金融危機の前後から、すでに進行しつつある現象です。
国内総生産(GDP)や雇用統計は好調だと言っても、あまり意味がありません。本当に景気回復が行きわたり、豊かになっているのであれば、トランプ氏のような過激な人が大統領に選ばれるはずがないからです。実際、大統領選のときの出口調査(米CNN)によると、景気に関し「悪い」と答えた人は6割を超えています。そのうちトランプ氏に投票した人は62%と、クリントン氏(31%)の2倍です。
現状への不満が膨らむ中、変化を予感させる人物が選ばれました。これが、トランプ現象の本質です。
閣僚人事の問題点
ただし、米国に求められる変化とは、既存の権力構造を見直し、貧富の格差と社会の分裂を修正することです。しかし、トランプ氏の閣僚人事をみると、格差と分裂はかえってひどくなると予想されます。
たとえば、教育長官のデボス氏(なお、就任には上院承認が必要。以下同様)を始め、閣僚にはトランプ氏に匹敵する大富豪が名を連ねます。低中所得層は十分配慮されるのでしょうか。また、厚生長官のプライス氏は、オバマケア批判の急先鋒です。それが撤廃されれば、低所得層は医療保険の適用を受けられなくなる恐れがあります。さらに、労働長官のバズダー氏は、最低賃金の引上げに反対しています。
レーガノミクスは手本にならない
また、トランプ氏の経済政策「トランポノミクス」が安定と繁栄に寄与するのか、かなり疑問です。
「トランポノミクス」は、レーガン元大統領の「レーガノミクス」に由来します。減税や規制緩和などの策が似ているというのです。しかし、「トリクルダウン(富裕層や大企業を起点に、恩恵が波及)」説に基づくレーガノミクスは、所得格差を広げました。実際、レーガン氏が登場した1980年代以降、低中所得層の実質所得はさほど増えていません。よって本来、レーガノミクスは手本にならないはずです。
そもそもトランプ氏とレーガン氏は、異なる点の方が鮮明です。レーガン氏は、大統領の前に州知事などを経験しました。また、グローバル化の推進派でした。そして、差別や暴言の印象などありません。
世界の中心は、米国からアジアへ
経済成長率を持続的に高めるには、二つの方法しかありません。人口を増やすか、労働・資本の生産性を高めるか、です。しかし、移民を抑制する以上、人口増加は鈍るでしょう。よって生産性を上げるイノベーション(新機軸)が重要ですが、それは、多様性が尊重される、自由闊達な文化から生まれます。
米国の本当の偉大さとは、そうした自由で寛容な文化です。それに魅かれた人々が世界中から集まり、グローバル化をリードしました。
しかし、「米国第一」と絶叫し、利己主義へ堕落すれば、「開かれた国」という魅力が失われます。このまま排他的な姿勢を強めれば、世界経済の中心は、米国からアジアへ、次第に移っていくでしょう。
アジアの一員である日本は、ここにチャンスを見出すことができます。したがって、特に悲観する必要はないでしょう。それでも、米国のかつての栄光を思うと、その変容を憂慮せずにはいられません。
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