トランプの世界で、変化に向き合う

2016/12/08 <>

トランプ氏を批判する人、支持する人

ドナルド・トランプ氏については、良い面にも着目すべきです。しかし米国では、金融市場の一部を除き、厳しい評価が優勢です。大統領選後に筆者が米国を訪れたとき、このことがよくわかりました。

もともとトランプ氏の好感度は極めて低いものでした。差別的な暴言などのためです。それらで心が傷ついた人々は、同氏を簡単に許さないでしょう。また同氏は、自身が経営する超高級ホテルに象徴される、大富豪です。結局、富裕者をますます富ませる政治を行うだろう、との冷めた見方も理解できます。

たとえば、エチオピア出身というタクシードライバーからは、トランプ氏への辛辣な批判を聞きました。人には敬意を払うこと、公の場では言葉を選ぶこと、それらを彼は学ぶ必要がある、とのことです。

一方、トランプ氏の支持者と思しき人にも会いました。ただ、トーンは概して控え目です。「隠れトランプファン」が同氏の勝利を呼んだ模様ですが、今もトランプ支持を公言しにくいムードがあるのです。

困難な(おそらく解決不可能な)課題

つまりトランプ氏は、全国民から祝福されて大統領になるわけではありません。そのため既存の支持者を満足させるのと同時に、反感を持つ人から信頼を勝ち取るという、極めて困難な課題を背負います。

理想は、大規模な経済対策が議会で矢継ぎ早に通り、景気(特に雇用)が一気に拡大することでしょう。

しかし、上院・下院とも共和党が制したとはいえ、共和党議員も同氏の政策に容易には賛同しないはずです。好感度の低いトランプ氏に同調し過ぎる議員は、各選挙区で支持を失う恐れがあるからです。さしあたり、2年後の中間選挙(上院議員の3分の1、下院議員の全員が改選)を意識せざるを得ません。

トランプ氏は不満や怒りの受け皿になっただけ、との見方も有力です。だとすれば、4年後の大統領選で同氏が再選される確率は低いでしょう。そのためになおさら、共和党内で求心力を得るのは困難です。

自慢の成果

仮に景気刺激策が決まったとしても、トランプ氏の公約である「雇用の創出」は限られるでしょう。

なぜなら、高齢化が進む米国では、完全雇用(働く意欲と能力のある人が皆、職に就ける状態)に近づいているからです。実際、多くの企業は今、人手不足で困っています。こうした状態で政府にできることは、多くありません。本来、さらなる移民受入れが必要ですが、むろんトランプ氏には論外でしょう。

国全体の雇用者数が増えなければ、トランプ氏は、個別の「成果」をアピールしようとするでしょう。早くも最近、メキシコへの工場移転を計画していた空調設備会社と「交渉」し、計画を一部撤回させるなどという挙に出ました。自由な国では非常識で非伝統的なことですが、同氏は大いに自慢しています。

過度な楽観と恐怖を排し、変化を楽しむ

そうした介入が行きづまれば、為政者の好む伝統的な手法がエスカレートするでしょう。すなわち、国外に「敵」を設定し、攻撃し、国民のナショナリズムを刺激するという手法です。政権支持率を高めるためには、それが最も手っ取り早いからです。

通商面では、米国の産業を守る観点から、中国、メキシコ、日本など、米国が多くの財を輸入している国が標的となり得ます。

たしかに、トランプ氏が良い大統領となる可能性もあります。しかし、今も続く自由奔放な発言や現地での評判からは、常識を超えた人物だという結論に至ります。とはいえ、常識が全て正しいとは限らず、世界には変化が必要です。事ここに至っては、変化を恐れるのでなく、むしろそれを楽しみたいものです。

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