トランプ相場の真相

2016/11/30 <>

トランプ氏勝利の後、北米取材を実施

岐路に立つ米国のことを知るには、現地の雰囲気に触れるのが一番です。そこで、ドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利した後、北米(ニューヨーク、ワシントンD.C.、トロントなど)を取材しました。

結論から言うと、にわかに高まった「トランプ期待」は、来年前半頃まで続く可能性があると感じられました。しかし「米国社会の分裂」は、新大統領のもとで深まりこそすれ、和らぐことはないでしょう。

つまり、トランプ氏の政策がうまくいけば、経済成長率は多少上がるかもしれません。株価も上がり、バブルが膨らむかもしれません。しかしそれらは国民全体の幸福を意味せず、社会の亀裂を直せません。

かつてないほど不確実性が高まる中、なぜか新ストーリー登場

今回、最も多く聞いた単語は、将来の「uncertainty(不確実性)」だったと思います。トランプ次期大統領のもとで米国はどうなるのか、各人の立場を問わず、確かなことはわからないということでしょう。

しかし金融市場は、「トランプ相場」に沸き立っています。とりわけ米国の主要な株価指数は、軒並み最高値をつけました。選挙前に恐れられていた「トランプ・リスク」とは、一体何だったのでしょうか。

不確実性が大きいと言いつつ、ウォール街(米国の金融業界)では、早くも新ストーリーが出来上がっているようでした。トランプ氏の政策による「経済成長率・インフレ率・金利の上昇」というものです。

ただし、ウォール街のほとんどの人(聞いた人に限れば全員)にとっても、トランプ氏の勝利は予想外だった、とのことです。クリントン氏を支持していたのでショックだ、という様子もうかがえました。

ウォール街の集団心理が作動し、レジーム・シフトを正当化

とはいえ、どんなショックもチャンス(儲ける機会)へと、瞬時に変えてしまうのがウォール街です。トランプ勝利が確実になった瞬間こそショックを受けても、それで打ちひしがれる人々ではありません。

むしろ次の瞬間には、新ストーリーを作ってしまおう、という心理が集団的に働いたようです。そしてトランプ氏の良い面に焦点が当てられ、悪い面からは目がそらされました。良い面とは、減税や規制緩和といった「市場好み」の政策です。悪い面とは、反自由貿易や移民排斥、白人中心といった思想です。

旧ストーリーは「低成長・低インフレ・低金利」という、いささか退屈なものでした。それを切り替える格好の材料となったのが、トランプ氏と共和党の勝利だった、というのが真相でしょう。旧ストーリーから新ストーリーへ「レジーム・シフト」が起こるというのです。ただ、「if(もし)」新政権が良い政策を行えば、との条件が常につけられます。その条件が満たされる根拠は、必ずしも強くありません。

株価は上がっても、米国民の一致団結は困難

それでも金融市場の流れを支配しているのは米国、特にウォール街です。彼らが新ストーリーで盛り上がり、皆がこれに追随する限り、金融市場は活況を呈し、米国株などは好調を示すでしょう。

問題は、市場好みの政策によって、幅広い労働者の生活が改善し、貧富の格差が縮まるのか、です。あるいは、トランプ旋風を招いた「エスタブリッシュメント(既存権力)支配」が倒されるのか、です。これについては、ほとんどの人が懐疑的でした。というより、ウォール街では、あまりこの問題に関心が持たれていないようです。

トランプ氏は、11月9日の勝利宣言演説にて、「国民の一致団結」を呼びかけました。しかし少なくとも、トランプ氏の信奉者(その多くは反ウォール街)が、エスタブリッシュメントやウォール街と一致団結することはないでしょう。そのことだけは、ほぼ確実です。

 

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