インフレ誘導の失敗を歓迎できるか?
異次元緩和は限界
日銀は、自らの能力には限界があるという事実を、市場に納得させることができたようです。実際、日銀は本日までの金融政策決定会合で追加緩和を見送りましたが、金融市場は特段失望しませんでした。
ただし、日銀は物価の見通しを引き下げました。3年半にわたる異次元緩和が実証したのは、日銀が物価を上げようとしてもうまくいかないということ、また、それは適切でもないということです。
それでも2%のインフレ目標は一応残っています。なぜ日銀は、インフレという「人の嫌がること」にこだわったのでしょうか。「インフレは善」と信じたからですが、論拠としては二つほどあるようです。
「インフレは善」の疑わしい論拠
一つは、インフレが予想されると、人々の消費(買い物)が増えるだろう(結果、景気が良くなる)というのです。インフレとはお金の価値が下がることなので、その前にお金を使うだろう、との理屈です。
これが疑わしいのは、普通に暮らしていればすぐにわかります。たしかに、消費税増税の直前には駆け込み需要が増えました。しかしそれは一時的で、その後の消費は抑えられました。特に食品や衣服などの値上がりが相次ぎ、それが人々の購買力と消費者心理を圧迫したのは、今や明らかでしょう。
金利低下の効果も疑わしい
そこで最近は、もう一つの論拠がしきりに持ち出されます。つまり、「実質金利」を用いた理屈です。
実質金利とは、名目金利からインフレ率を差し引いたものです。そしてインフレ率が上がれば実質金利が下がり、実質金利が下がれば設備投資などが増える(景気が良くなる)、というのです。しかしこれも疑わしいことは、多くの人が知っています。そのことは、次のような簡単な理由を考えればわかります。
まず、企業が設備投資を行うかどうかの判断において、実質金利(あるいは、名目金利とインフレ率)は普通、決定的な要素ではありません。一番重要なのは、当然ながら、将来の需要が見込めるかです。
インフレで企業の売上げが増えても(その保証はありませんが)、需要(=販売数量)が増えなければ設備投資の必要はありません。もし低金利に魅かれて投資を行ったとしても、需要の裏付けがなければ余分な設備となり、その後の投資を抑制します。通常、将来行うべき投資が前倒しされるだけでしょう。
インフレ誘導は失敗したが
実質金利の低下が経済全体にプラスとなるわけではない簡単な理由を、もう一点指摘しておきます。
すなわち、実質金利が下がればお金を借りる側は助かるかもしれませんが、お金を貸す側(預金者や国債の投資家など)は損したり困ったりする場合が多いという点です。むしろ今は、金利低下の弊害の方が大きくなり得ます。これは、日銀のマイナス金利政策により示されたとおりです。金利が低下しすぎたために、特に預金者や年金生活者の所得や心理に悪影響が及び、消費低迷の一因になっているのです。
まとめれば、「インフレは善」だと証明するのは困難ということです(逆に「デフレが善」とも限りません。インフレもデフレも、功罪両面あるというだけのことです)。とはいえ日銀のインフレ誘導は失敗し、目標は形骸化しつつあります。日銀の挫折ですが、多くの国民にとっては歓迎できることでしょう。
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