インフレ誘導の失敗を歓迎できるか?

2016/11/01

異次元緩和は限界

日銀は、自らの能力には限界があるという事実を、市場に納得させることができたようです。実際、日銀は本日までの金融政策決定会合で追加緩和を見送りましたが、金融市場は特段失望しませんでした。

ただし、日銀は物価の見通しを引き下げました。3年半にわたる異次元緩和が実証したのは、日銀が物価を上げようとしてもうまくいかないということ、また、それは適切でもないということです。

それでも2%のインフレ目標は一応残っています。なぜ日銀は、インフレという「人の嫌がること」にこだわったのでしょうか。「インフレは善」と信じたからですが、論拠としては二つほどあるようです。

「インフレは善」の疑わしい論拠

一つは、インフレが予想されると、人々の消費(買い物)が増えるだろう(結果、景気が良くなる)というのです。インフレとはお金の価値が下がることなので、その前にお金を使うだろう、との理屈です。

これが疑わしいのは、普通に暮らしていればすぐにわかります。たしかに、消費税増税の直前には駆け込み需要が増えました。しかしそれは一時的で、その後の消費は抑えられました。特に食品や衣服などの値上がりが相次ぎ、それが人々の購買力と消費者心理を圧迫したのは、今や明らかでしょう。

金利低下の効果も疑わしい

そこで最近は、もう一つの論拠がしきりに持ち出されます。つまり、「実質金利」を用いた理屈です。

実質金利とは、名目金利からインフレ率を差し引いたものです。そしてインフレ率が上がれば実質金利が下がり、実質金利が下がれば設備投資などが増える(景気が良くなる)、というのです。しかしこれも疑わしいことは、多くの人が知っています。そのことは、次のような簡単な理由を考えればわかります。

まず、企業が設備投資を行うかどうかの判断において、実質金利(あるいは、名目金利とインフレ率)は普通、決定的な要素ではありません。一番重要なのは、当然ながら、将来の需要が見込めるかです。

インフレで企業の売上げが増えても(その保証はありませんが)、需要(=販売数量)が増えなければ設備投資の必要はありません。もし低金利に魅かれて投資を行ったとしても、需要の裏付けがなければ余分な設備となり、その後の投資を抑制します。通常、将来行うべき投資が前倒しされるだけでしょう。

インフレ誘導は失敗したが

実質金利の低下が経済全体にプラスとなるわけではない簡単な理由を、もう一点指摘しておきます。

すなわち、実質金利が下がればお金を借りる側は助かるかもしれませんが、お金を貸す側(預金者や国債の投資家など)は損したり困ったりする場合が多いという点です。むしろ今は、金利低下の弊害の方が大きくなり得ます。これは、日銀のマイナス金利政策により示されたとおりです。金利が低下しすぎたために、特に預金者や年金生活者の所得や心理に悪影響が及び、消費低迷の一因になっているのです。

まとめれば、「インフレは善」だと証明するのは困難ということです(逆に「デフレが善」とも限りません。インフレもデフレも、功罪両面あるというだけのことです)。とはいえ日銀のインフレ誘導は失敗し、目標は形骸化しつつあります。日銀の挫折ですが、多くの国民にとっては歓迎できることでしょう。

 

印刷用PDFはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
しんきん投信「トピックス」   しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会

このページのトップへ