タイにとって国王とは

2016/10/19 <>

タイの国王が崩御

10月13日、タイのプミポン国王(ラーマ9世)が亡くなりました。人々は今、悲嘆にくれています。

これは、純粋な気持ちでしょう。たしかにタイでは、王室を侮辱すると罰せられる可能性があります(最長15年の禁固刑)。しかしほとんどの人が国王を敬愛していたのは、紛れもない事実です。そしてタイが今まで発展を成し遂げられたのは、精神的支柱としての国王の存在に負うところが小さくありません。

それだけに、国王崩御後のタイはどうなるのか、不安を感じずにはいられません。東南アジア屈指の工業国であり日本企業の拠点としても重要なので、日本にとっても決して他人事ではありません。

偉大な功績

プミポン国王は1946年に即位しました。以来70年間の歩みは、タイの戦後史と深く関連しています。

国王は政治を超越するとされているため、強大な権力を直接行使するわけではありません。しかし国王は、仏教と並び国民の大きな拠り所です。よって、政治や生活への影響力が小さいはずはないでしょう。

国がまだまだ遅れていた頃には、自ら農村を視察し、農業の近代化や教育の普及に取り組みました。とはいえ、不自然に偉ぶるところはなかったので、「神」というより「父」のような存在だったようです。

また、愛犬家としても知られ、野良犬の保護などに努めました。それらの結果、犬たちの地位がずいぶん向上したようです。実際タイへ行くと、多くの犬と人間が仲良く暮らしている様子がうかがえます。

国民統合の柱として

国王の権威は、乱れがちなタイの政治において、安定と統合を保つ役割を果たしてきました。とりわけ選挙で選ばれたのでない軍事政権の場合、統治の正統性を得るには国王のお墨付きが有効となります。

タイでは農村部と都市部との格差などを背景に、党派対立が深刻化しやすいという事情があります。それを打開するといった名目で、頻繁に起こるのが軍部によるクーデター(非合法の政権転覆)です。ただし、民主的な政権にも汚職や腐敗が伴うので、民主派が善で軍部が悪、と単純には言い切れません。

現在は、2014年にクーデターを起こした軍部が政権を担っています。経済運営は軌道に乗りつつありますが、これも国王による政権承認のおかげと言えます。来年末までには総選挙が実施され民政へ復帰する予定ですが、国王崩御でそれが遅れかねません。そうなれば、民主派の強い反発が予想されます。

今は平穏だが

新しい王位には、 ワチラロンコン皇太子が就く見込みです。しかし、プミポン国王への敬愛がその人柄と功績に拠っていたとすれば、新国王は同じような威光を得られるのか、との疑問が当然生まれます。

ただ、金融市場は総じて平穏です。国王の健康不安が広がった夏頃以降、タイの株価や通貨価値は下がったものの、崩御後は上がっています。通常の経済活動は続けるように、という政府の呼びかけも功を奏しているようです。政変がない限り、おそらく日本経済への影響は大きくならないでしょう。

それでも、この歴史的な崩御がタイの政治や経済にどう影響するのか、たしかなことは言えません。タイの人々にとってプミポン国王の存在は、外国人には想像できないほど大きなものであったからです。

 

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