「ハード・ブレグジット」は怖くない

2016/10/05

ハードかソフトか

当面の政治リスクと言えば、やはり11月の米大統領選挙が挙げられます。しかし、6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱、つまり「ブレグジット」を選択した英国も、忘れるわけにはいきません。

今後の離脱交渉を経て、英国とEUの新しい関係はどのような姿になるのか、これが注目されています。

特にEU離脱がハードなもの(移民制限を優先)になるのか、ソフトなもの(EU市場へのアクセスを優先)になるのか、です。金融市場は、経済合理性を理由に「ソフト・ブレグジット」を望むでしょう。

メイ首相のスピーチ

7月に就任したテリーザ・メイ首相は、10月2日、これらに関し、重要なスピーチを行いました。

まず、これまで不明確だった交渉時期に関し「来年3月末までに開始」と明言しました。よっておそらく、2019年3月末までにEU離脱となります(EU基本条約上、交渉期限は原則2年であるため)。

何より印象的なのは、ブレグジットは英国の完全な主権と真のグローバル化をもたらす、との認識です。メイ氏は当初残留派でしたが、今や民意を受け入れ、試練をチャンスに変えようという覚悟のようです。

ハード・ブレグジットへ?

英国は、EUの一員であることで多くの経済的恩恵を受けてきました。半面、国内法よりもEU法が優先する状態を強いられています。EUから離脱すれば、たしかに、より自由な主権と独立が得られます。

「ハードかソフトか」については、そんな二分法は誤りだと首相は述べています。しかし英国の自由や独立を高らかに宣言すれば、「ハード・ブレグジット」へ傾くのが自然です。今般のスピーチでも、移民のコントロールが強調されました。これらを受け、ポンドは対ドルで約31年ぶり安値へ下落しました。

首相は、企業のEU市場へのアクセス維持(関税・規制の無障壁化)も主張しています。しかし「人・物・サービス・お金」のうち、「人」の移動を制限すれば、ほかの移動も当然、制限されるでしょう。

ハードな姿勢の背景

ハードと言える姿勢が示された背景には、景気が案外堅調であることや、国民の強い意思があります。

英国の企業や消費者の景況感は、国民投票直後こそ急落したものの、その後、急回復しています。ポンド安は長引きそうなので、それによって海外で稼ぐ企業の収益が膨らむとの期待もあります。

すなわち、国民投票で離脱派が勝てば不況になるという予想は、今のところ外れています。このため投票後も、一貫して離脱派が優勢です。その底流にある民意は、十分尊重されねばなりません。

ブレグジットとトランプ旋風との大きな違い

英国の民意とは、反移民感情や反エリート意識などです。この点、大統領選挙をめぐり動揺する米国と似ています。ただしブレグジットと米国の「トランプ旋風」との間にある、大きな違いも見逃せません。

つまりグローバル化に逆らうトランプ氏とは違い、ブレグジットは、メイ首相の言うとおりグローバル化を広げる可能性があります。EUの束縛を解けば、英国は非EU諸国との関係を深められるからです。よってハード・ブレグジットとなっても、世界経済全体としては、さほど怖れる必要はないでしょう。

 

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