米FRBの知的良心

2016/08/31

利上げに前向きな理由

米国では昨年12月に続き、今年も9月か12月、政策金利が引き上げられるかもしれません。

ただ、これを急ぐ必要はないでしょう。世界経済は、盤石の状態とは言えません。そうした中での利上げは、リスクを伴います。昨年12月の利上げ後も、今年2月半ばまで株価などが下落しました。

それでも米連邦準備制度理事会(FRB)は、年内の利上げに前向きです。もし1回も利上げができないとなると、格好がつかないからでしょう。FRBは年初、年内4回の利上げを示唆していたのです。

誤算は何か?

とはいえ、FRBの見通しが甘かったのはごまかしきれません。これには、二つの誤算がありました。一つは、雇用が回復し、失業率が下がっているにもかかわらず、賃金やインフレ率がそれほど伸びないことです。もう一つは、低金利政策を続けているにもかかわらず、経済成長率が高まらないことです。

一つめの点は、おそらく、グローバル化・情報技術化による中間層の衰退などが影響しているのでしょう。理由は何であれ、賃金やインフレ率が伸びなければ、利上げを急いで行うことを正当化できません。

流行の「中立金利」について

二つめの点も、利上げが遅れる根拠となります。これに関係するのが、最近流行の「中立金利」をめぐる議論です。「経済を過熱させず冷却もしない、適正な短期金利」のことですが、あくまで推計値です。

今の政策金利(0.25~0.50%)は、中立金利(従来の推計ではインフレ率込みで約3~5%)よりも大幅に低いはず(極めて緩和的)でした。だとすれば、経済活動を促すはずです。ところが、成長率は低迷したままです。ということは、中立金利はもっと低いのではないか、となります。中立金利が下がる理由も様々ですが、生産性の低下により、投資収益率が下がったことなどが考えられます。中立金利が案外低いとすれば、今の政策金利はさほど緩和的でなく、したがって利上げを急ぐ必要はなくなります。

自縄自縛に陥ったFRB

中立金利は、FRBが示す「長期的な政策金利」(以下、「均衡金利」と呼びます)に近い概念です。その見通しは今年6月に3%まで下がり(1年前は3.75%)、ドル安・円高の一因となりました。

ただ、均衡金利よりも現在の政策金利が相当低いことに変わりはありません。この差がある限りFRBは、均衡金利(いわば正常な金利)に向け、年に数回は利上げを行う、と言い続けるしかなくなります。

FRBの自縄自縛と言えますが、これを逃れようと均衡金利の見通しを下げすぎれば、政策がうまくいかず経済が停滞するのを、自ら認めることになります(均衡金利は成長率やインフレ率を反映するため)。

知的良心を取り戻すために

そうしたジレンマに直面し、セントルイス連銀のブラード総裁が近頃、興味深い主張を行っています。均衡金利は経済のレジーム(時代の状況)によって変わるので、FRBはその見通しを示すべきでない、というのです。たしかに、知的な良心を貫けば、レジーム変化は誰にも予測できないと認めるべきです。

この点、日銀についても似たことが言えます(利上げ・緩和の方向は逆ですが)。つまり、達成に遠い「2%の物価上昇目標」を掲げる限り、必ず日銀は追加緩和の逐次投入に追い込まれます。しかし日本のレジームも変わる中、適正な物価はわかりません。よって本来、物価目標を示さない方がよいでしょう。

 

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