アジア取材報告②-なぜ、ミャンマーなのか?

2016/07/21

はじめに 

7月上旬、ミャンマーを取材しました。「最後のフロンティア」として、アジアで最も注目されている国の一つです。(なお、「ビルマ」と呼ばれることもありますが、ここでは「ミャンマー」で統一します。)

新時代の到来に沸く

なぜ「フロンティア(未開拓の地)」なのか。それは、数年前まで軍部独裁政権のもとで「鎖国」に近い状態にあったからです。そのため経済発展は、東南アジアの中でも著しく立ち遅れてしまいました。

しかし2011年に民主政へ移行し、ミャンマーは新時代を迎えました。それまで科されていた欧米による経済制裁(日本も追随)も緩和され、他国から多くの物品、技術、資金が入るようになりました。これらに伴い経済は急発展し始めたのです。昨年には総選挙が行われ、今春、新しい政権が発足しました。

人口は5千万人を超え、面積は日本の約1.8倍もあります。農業大国で、特にコメの生産力は世界有数です。野菜や果物、資源の宝庫でもあります。中でも天然ガスは、同国の輸出において約4割を占めています。また、ルビーは世界の約9割を産出し、翡翠も有名です。工業では、今は縫製が中心です。

「アジア最貧国」を訪ねて

それでも、ミャンマーの経済はまだまだ貧弱です。統計は正確でないものの、一人あたりの国内総生産(GDP、年間)は約1,300米ドルと推計されます。カンボジアなどと並び、アジア最貧国の一つです。

ただ、最大都市であるヤンゴン(なお、首都はネピドー)の中心部へ行くと、そこまで貧しい印象は受けません。また、意外に静かです。これは、ヤンゴン市内ではバイクが禁じられているためもあります。

しかし裏通りに入ると、発展に取り残された姿が待っています。また、ヤンゴン郊外へ行くと、住環境の良くない地区が存在します。さらに、ヤンゴンを少し離れれば、昔ながらの村落が広がっています。

そうした素朴な風景を見ると、この国は近代化を急ぐ必要はなく、このままでよいのかもしれない、との思いがよぎります。村民の表情も、さほど不幸な感じはしません。しかしそれは勝手な思いでしょう。

村長に聞く

今般、ある村落を訪ね、村長の話を聞くことができました。そして、村民がもっと豊かになるよう懸命に努力していることがわかったのです。つまり、貧しい生活に満足しているわけでは決してありません。

その村落は、ミャンマーと日本が官民共同で開発している「ティワラ工業団地」の近くにあります。このため、日本企業がミャンマーのような国で工場をつくり、現地の人を雇う意味も考えさせられました。安い賃金で現地の人を雇うのは国境を越えた「搾取」であり、形を変えた「植民地化」なのでしょうか。

しかし村長は、日本企業が来て雇用を増やしてくれるのを、とても感謝していると述べていました。その村落にも、工業団地の工場で働いている若者がいるとのことです。経済には発展段階があります。よって日本から見れば低賃金でも、現地の物価に見合う正当な待遇であれば、搾取とは言えないでしょう。

ミャンマーは日本を恨んでいるのか?

もともと、ミャンマーと日本との関係は深いものがあります。19世紀からこの国を植民地にしていた英国を、1941年、一旦追い出したのは日本軍です(その後、英国の再統治を経て、1948年に独立)。

しかし、日本軍の無謀な作戦もあり、10万人以上の日本兵がこの国で死亡したと言われています(その悲惨さの一端は、映画『ビルマの竪琴』で垣間見ることができます)。こうした極限的な状況の中、日本軍による約3年間の統治は、現地の人々にとって、英国の統治よりもひどいものだったようです。

現在、日本政府はミャンマーに対し、気前よく政府開発援助(ODA)を行っています。これは、戦後賠償の一環として始まったものです。ただ、ミャンマーの人々には日本への恨みの念などありません(それに甘えてはいけませんが)。むしろ、東南アジアの中でも特に親日度の高い国です。

ミャンマーの人には創造性がないのか? 

それは、ほとんどの人が、「許し、和解せよ」と説く仏教を篤く信仰していることにもよるのでしょう。

ミャンマーの人々は教育にも熱心です。識字率は9割を超え、今般訪れた村落の家からも、本(おそらく教科書)を朗読する子供らの大声が響いていました。ただ、教育は暗記中心のようです。そのことと仏教的な穏やかさが相まって、労働者としては優秀でも、創意工夫の力が今一つと言われたりします。

しかし昔、この地では「パガン朝(11~13世紀)」など、仏教を土台に、壮大にしてユニークな文化が栄えました。そうした創造性が弱くなったのは仏教のせいではなく、元来の国民性とも言えません。おそらく、英国の植民地統治や軍部の強権政治のためでしょう。それらは、従順な人を求めるからです。

アウンサンスーチーという偉人 

従順とはいえ、人々は立ち上がるべきときには立ち上がります。それが1988年や2007年の反政府・民主化デモでした。いずれも国軍に鎮圧されたものの、今の民主化は一連の運動のたまものでしょう。

民主化の象徴が、あのアウンサンスーチー氏です。憲法上、同氏は大統領にはなれない(息子が外国籍であるため)ので、今春、外務大臣に就任しました。ただ、国の実質的なリーダーは同氏だと言えます。

同氏の父親は、独立運動を率い、「建国の英雄」として今も国民から尊崇されるアウンサン将軍です。ただ、アウンサンスーチー氏も、偉大な人物です。その思想は、仏教の「慈悲」を軸に、インドのガンジーらに影響された「非暴力主義」と、英米流の「法による支配」などから形成されています。こうした思想に立つバランス感覚は、今後、軍部との協調や中立的な外交を行う上で、大いに役立つでしょう。

まとめ-二つの課題 

ミャンマーには二つの大きな課題があります。第一に、電力などインフラが整っていない点です。しかし「フロンティア」の魅力は大きく、日本、中国、韓国などが競ってこれを整備しようとするでしょう。

第二に、より根本的な点として、民主主義は定着するのか、との問題があります。民主的な新政権が誕生したばかりなので今は希望に満ちていますが、軍部には不満分子もいるはずで、政治不安は残ります。

しかし昨年の総選挙で民主派が大勝し、政治は実際に変わりました。結果、国民は主権者意識を強めたようです。また、検閲は廃止され、人々は世界を知りました。よって、鎖国へ戻ることはないでしょう。

ミャンマーでは、「国づくり」が始まったばかりと言えます。そのため、「次の投資対象」として魅力的であるにとどまらず、民主化、国際化、近代化とは何かということを、基礎から教えてくれるのです。

 

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