参院選における「経済政策」という争点

2016/06/30 <>

アベノミクスを問う選挙?

英国は、民主的な手続きによって欧州連合(EU)離脱を選びました。その意思は十分尊重されるべきでしょう。日本の有権者も、7月10日に行われる参議院選挙において、主体的な判断が求められます。

この選挙では、いつの間にか「経済政策」が大きな争点と言われています。「アベノミクスを前進させるか後退させるか」を問う選挙、とのことです。そこで、現在の政策を簡単に点検しておきましょう。

「ニッポン1億総活躍プラン」

さほど話題にならなかったものの、6月初旬、現政権の施策をまとめたものが三つ決定されました。

まず「ニッポン1億総活躍プラン」です。昨年秋、アベノミクス「第2ステージ」が宣言されたときに登場したスローガンです。それ自体は戦争中のスローガンを想起させることもあって、不人気です。

しかし内容は、総じて的確と言えそうです。特に「働き方改革(非正規雇用の待遇改善など)」「保育や介護の充実」といった項目は、日本社会の現況を踏まえた、正しい問題認識に基づいています。

アベノミクスの欠点は、格差を拡大させた点、および、少子高齢化・人口減という根本問題への取組みが不十分な点でした。「ニッポン1億総活躍プラン」は、そうした反省に立っているとも言えるでしょう。

「日本再興戦略」と「骨太の方針」

いわゆる成長戦略としては、「日本再興戦略」がまとめられました。今回は、人工知能(AI)やロボットなどを活用し、生産性を高めようという、「第4次産業革命」が前面に打ち出されています。

第4次産業革命は、すでに米国やドイツが先行しているので、日本が主導権を握れるかどうかはわかりません。とはいえ、人口減少が進む日本でこそ大きな可能性を秘めた、極めて有望な技術革新でしょう。

よって、官民でそれに取り組もうというのは、適切です。なお、「名目国内総生産(GDP)600兆円」という非現実的な目標も残っていますが、これについては、人を驚かせるための題目と見るべきです。

もう一つ、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」も発表されました。内容は盛り沢山ですが、「成長と分配の好循環の実現」などと「(所得の)分配」への配慮が見られるのは、大いに評価できます。

もはや経済政策の違いは少ない

つまり、興奮気味のスローガンとは異なり、現在の施策を個別に見ると、大胆でも異様でもありません。

当然、選挙も意識されているのでしょう。「アベノミクスは大企業重視で弱者に冷たい」というイメージを打ち消そうというわけです。そのため経済政策では、野党との本質的な違いが少なくなっています。

「旧3本の矢」の中心だった日銀の異次元緩和、および、前政権時と比べた円安・株高という「成果」も、ほとんどアピールされなくなりました。政策で市場を操ることはできない、と学んだのでしょう。

要するにアベノミクスについては、「大企業・投資家優先」「異次元緩和(による円安・インフレ)」「金融市場偏重」のどれをとっても、すでに自ら後退させています。「後退させるのか」を問うまでもありません。よって参院選の本来の争点は、特徴が薄れている経済政策でなく、安全保障や憲法改正でしょう。

 

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