米国は身勝手なのか?

2016/05/12 <>

金融政策は「日本全体のため」

今年は円高が一旦加速しました。また、インフレ率は下がっています。それでも日銀は4月末、市場の期待に反し追加緩和を行いませんでした。もはや日銀に残された手段は少ないということでしょう。

ただ、今回の判断は妥当でしょう。日銀には、広い視野から政策を行うことが求められるからです。

金融機関などは、日銀が今年導入したマイナス金利政策の影響を懸念しています。しかし日銀によれば、銀行は高収益をあげているので「大丈夫」とのことです。また、日銀総裁は「金融政策は金融機関のためでなく、日本経済全体のためにやっている」と、正論を振りかざしました(4月28日の記者会見)。

収益について言えば、昨年、最高益を更新したのが主要な輸出企業です。だとすれば、円高が進んでも輸出企業は「大丈夫」でしょう。また、金融政策は輸出企業でなく「日本全体のため」に行うべきです。

米国の現状は?

これを踏まえれば、今後、事実上の円安誘導(輸出企業への支援)である金融緩和に期待しすぎるわけにはいきません。したがって、為替相場を方向づける上では米国の事情が今まで以上に重要となります。

その米国経済は、さほど好調とは言えません。1-3月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比年率でわずか0.5%の増加と、2年ぶりの低い伸びです。昨年12月の利上げも悪影響を及ぼしているようです。

雇用情勢は悪くないものの、個人消費は伸び悩んでいます。また、企業の設備投資は2期連続で減少しています。雇用が増える一方で設備投資が減るのは、企業にとって、新規設備を導入するよりも人を雇用した方が割安と考えられているからでしょう。しかし、投資が増えなければ生産性はあまり伸びず、実質賃金も増えにくいでしょう。多くの人がそうした状況に不安を覚え、消費を抑えるのは当然です。

米国の利上げは当面困難

そのため、米連邦準備制度理事会(FRB)は追加利上げに慎重にならざるを得ません。6月14、15日に利上げが決定される可能性は残っているものの、その場合、市場を少なからず驚かせるでしょう。

今後はイベントが目白押しです。何より、6月23日には英国にて欧州連合(EU)離脱の賛否を問う国民投票が行われます。ギリシャの財政危機も再発するかもしれません。FRBは、国内の雇用と物価だけでなく、海外経済や金融市場も注意深く点検しています。よって、利上げのハードルは高そうです。

今年のドル安は円だけでなく対ユーロでも顕著ですが、これは米国の利上げ観測後退が主因です。実際、6月に見送られれば、おそらく、今年の利上げは9月か12月に1回だけ行われるかどうかでしょう。

広い視野に立つと、円高は「世界と日本のため」

こうした中、日本が大規模な円売り介入を行うのは難しそうです。4月末には、米財務省が為替報告書を発表しました。ここで、為替操作の観点から監視すべき国として、日本や中国などが指定されました。

通貨安政策をけん制する意図がありますが、これを単に「米国の身勝手」で片づけることはできません。

重要なのは、「監視すべき国」の判定基準として経常収支(貿易収支など)の大幅黒字が挙げられていることです。この点、日本では、原油安を主因に昨年以降、黒字が膨らんでいます。そのため、円高は理論的(稼いだ外貨を円に換える動きが増えるため)であって、投機的とは言い切れません。

振り返ると、2008年の金融危機は「経常収支の不均衡」が背景でした(赤字国である米国は、他国からの投資で赤字を埋める必要があり、それに伴いバブル膨張)。よって正論を言うのであれば、日本は適度な円高を容認すべき、となります。それにより米国の赤字が多少とも縮小すれば「世界経済全体のため」であり、日本市場の安定にも役立つでしょう。

 

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