窮地の日銀に求められるのは何か?
リフレは失敗
日銀が歩む試練の道は険しくなるばかりです。2%のインフレ率という目標は、はるか彼方へ遠ざかりました。消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の上昇率は近々、おそらくマイナスになるでしょう。
原油安は言い訳になりません。ある品目の値下がりは別の品目の値上がりで相殺されるので、全体の物価水準には影響しない。これが異次元緩和を基礎づける「リフレ派」の奇異な主張内容だったからです。
インフレ目標を諦められない日銀は昨年以降、賃金増に望みを託しました。そして自由経済の常識に反し、ことあるごとに財界へ賃上げ要請を行いました。しかし、今春の賃上げは期待外れだったようです。
インフレを促すものとして頼ってきた円安も、流れが変わりました。そこで日銀は1月末、マイナス金利政策という劇薬を処方しました。ところがその後も円高が進み、金融緩和の限界を露呈しています。
「5分で読めるマイナス金利」
預金者の心理を害する、金融機関の収益を圧迫する、といったマイナス金利への批判は、日銀にとって予想外の厳しさだったようです。これを受け日銀が作成したのが、「5分で読めるマイナス金利」です。
それを一見すると「国民目線」に立つ画期的な文書に見えます。たしかに、わかりやすい言葉を用いた点は評価されるべきでしょう。問題は内容が良くないことで、かえって日銀批判を勢いづかせています。
要するに、日銀の政策により「いずれプラスの効果がはっきり出てくる」「かならずデフレから抜け出せる」、そしてデフレ脱出で「景気は良くなる」、つまりマイナス金利は「みんなのため」、とのことです。
日銀を信じていれば、いつか必ず救済される、ということのようです。しかし、「脱デフレ」という旗印を掲げれば何でも許されるのでしょうか。第一、脱デフレで楽園のような国が実現するのでしょうか。
「救済物語」を信じられるか
そうした「救済物語」を信じる人は少ないでしょう。原油安にすら勝てないのが神ならぬ日銀です。
もともと日銀(およびリフレ派)と一般国民の間には、生活感覚において深い断絶が横たわっています。それは結局、インフレ(物価上昇)とデフレ(物価下落)をどう見るか、の違いにほかなりません。
日銀自身の調査によれば、「物価上昇は困ったこと」と感じる人が8割以上です。この圧倒的多数に抗し、痛みを広げてまでインフレを目指す理由はあるのか。それがきちんと説明されていません。
また日銀は、収入が増えるという夢を振りまいてきました。ところが、実際に増えると思う人は1割以下です。国民は、物価が上がっても賃金や年金はさほど増えない、と危惧しているようです。
必要なのは追加緩和でなく出口戦略
もちろん、政策の効果はすぐには表れません。それゆえにこそ「2年」という物価目標の期限が設けられたのです。しかし3年が経った今も、目標達成は展望できません。また、昨年まで4年連続で実質賃金がマイナスになるなど物価に比べ収入は増えず、国民の危惧の方が正しかったことを証明しています。
よって求められるのは、リフレの誤りを直視し、出口戦略(異次元緩和の縮小)を考えることです。しかし失敗を認められない日銀は、逆に一段の追加緩和も辞さない構えです。金融市場でも、4月27、28日の金融政策決定会合での追加緩和を期待する向きがあります。物価上昇は困るという世論に無頓着な日銀ですが、緩和中毒にかかった市場の催促には極めて敏感です。
ただ、4月に追加緩和が行われる可能性は、どちらかと言うと低いでしょう。熊本の地震などにもかかわらず、海外情勢の改善のおかげで、日本市場はパニック的な状況にはないからです。それでも追加緩和が行われるとすれば、資産買入れ額の小幅増など、「戦力の逐次投入」と呼ぶべきものにとどまりそうです。
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