アベノミクス-総括と今後
言い訳は困難に
この3月は、2015年度が終わるというだけでなく、現政権の経済政策である「アベノミクス」にとっても大きな節目です。というのは、それがスタートしたのが2013年の初めだとすると、この3月末をもって3年3か月が経過したことになるからです。3年3か月と言えば、前の民主党政権の期間です。
現政権は、これに並んだことになります。こうなると今後、アベノミクスの成果がまだ出なくても、もうじき出てくる、と言い続けるのは難しくなります。そんな言い訳が通るのであれば、前政権が3年3か月で成果を出せなかったのも仕方がない、もう少し政権を担わせるべきだった、となってしまいます。
では、この3年3か月の実績はどうだったのか。最重要の指標である実質国内総生産(GDP)の伸び(各四半期の平均)は年率約0.7%の見込みです。前政権時(年率約1.8%)の半分にも届きません。
そもそもアベノミクスとは
これを見て、アベノミクスを責めるのは簡単です。しかしもっと肝心なのは、この経験から何を学び、それをいかに将来へ活かすか、です。人間からなる組織である以上、政府も日銀も失敗はつきものです。
そもそも、アベノミクスとは何だったのでしょうか。端的に表しているのは、「期待に働きかける政策」というものでしょう。ここで「期待」とは、「予想」あるいは「気分」「ムード」とも言い換えられます。
つまり、経済などについて政府が異様に強気な態度を示すことで、国内のムードを盛り上げようとしたのです。皆が明るい気分になれば、個人の消費は増え、企業は設備投資を積極化する、という考えです。
アベノミクスの中核と言うべき日銀の異次元緩和も、そうした素朴な考えに基づいています。実際、日銀総裁は昨年6月、童話「ピーターパン」を持ち出してわかりやすく説明しました。「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう。大切なことは、前向きな姿勢と確信」などと述べたのです。
「期待に働きかける政策」は挫折
政府・日銀の強気姿勢に歩調を合わせるかのごとく、この数年、日本の経済や社会を手放しで自賛する論が増えました(近隣諸国への悪口も増えました)。顧みれば90年代のバブル崩壊後、日本を必要以上に卑下する論調が幅を利かせていました。その反動として、日本礼賛の流行は必然だったのでしょうか。
景気を良くするには国民の気持ちも大切、というのは、真実を含んでいるように感じられます。アベノミクスが始まった直後、日本礼賛論の広がりに見られるとおり、ムードが高揚したのも事実でしょう。
にもかかわらず、この3年3か月の経済成長率は、上述のとおり前政権時に比べても見劣りします。そして、十分な成果が出る前にアベノミクスへの期待は下がり、評価しない人が増えています。
これらは、政府・日銀が「やる気」を見せ、国民の一部や市場が興奮しただけでは、経済社会の本質はほとんど改善しないことを実証したと言えます。また「期待に働きかける政策」は、国民の姿勢を一方向へ向けようと焦るあまり、現政権の政策にそぐわない言論を抹殺しかねない危険を内包しています。
試される日本政治
しかし、そうした最悪の事態に陥る前に、アベノミクスへの懐疑的な言論が増えてきたように見えます。これは、「自由」で「民主的」な国として当然のことです。自国を褒めたいのであれば、そうした言論の自由をこそ褒めたたえるべきでしょう。
こうした中、民主党と維新の党が合流し、「民進党」が発足しました。この党の思想は未だよくわからず、能力も未知数です。それでも、複数の政党が並び立ち、活発な経済論争が交わされるのは望ましいことです。優れた政策は、そのような論争の中から生まれるからです。そうなれば、アベノミクスにとっても、今の行き詰まりを打開する転機になるかもしれません。
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