サプライズ!:ロシア経済は崩壊せず、戦争は続く

2022/12/12

ロシア経済の意外な強さ

ウクライナを不当に侵攻したロシアは、世界に二つのサプライズ(驚き)を与えています。一つは、ロシア軍の弱さです(ウクライナ軍の反撃に押され気味)。もう一つは、逆に、ロシア経済の意外な強さです。

当初は欧米などの経済制裁が、ロシアに大打撃を与えると予想されました。しかし侵攻から9か月以上が経過した今、経済の崩壊には程遠いのです。例えば国際通貨基金(IMF)は10月、ロシア経済の今年の成長率見通しをマイナス3.4%としました。4月時点の見通しと比べ、大幅な上方修正です(図表1)。

通貨価値も驚くべき回復

経済の崩壊は通常、ハイパーな(極端な)インフレを伴います。この点、ロシアのインフレ率(消費者物価指数の前年比上昇率)は、足元12%程度です。低くはないものの、ハイパーインフレとは呼べません。

インフレの加速が抑えられているのは、通貨ルーブルの安定などのためです。その相場は対ドルで3月に急落した後、急回復し、今は戦争勃発直前の水準よりも高くなっています。ルーブルの安定には、政府・中央銀行が資本流出規制や利上げを今春に素早く決めたことに加え、貿易黒字の拡大も寄与しています。

原油などがロシアを潤す

ロシアの黒字拡大は、原油・天然ガスの値上がりで輸出額が増加している一方、輸入額が減少しているためです。後者は、経済制裁の一環としての欧米などによる対ロシア輸出の厳しい制限が、主な要因です。

こうしたことから、欧米は苦しい状況に陥っています。欧州の場合、戦争勃発を受けロシア産の原油・天然ガスへの依存度を急低下させていますが、全くゼロにするのは非現実的です。ロシア産エネルギーの輸入が皆無となれば、エネルギーの不足と価格高騰に苦しむ欧州経済は、一層の悪化を余儀なくされます。

原油をめぐる新たな措置

米国も、板挟みの状況です。ロシアの戦争遂行能力を削ぐには、資金源である原油などでの制裁強化が求められます。しかしそれは、世界的な原油供給減→原油高→米国のインフレ率上昇、となりかねません。

板挟みの中、欧州主要国などは12月5日、ロシアの収入減を目指す制裁を導入しました。第一に、欧州連合(EU)がロシア産原油の海上輸入を禁止しました(陸上輸入は許容)。第二に、ロシア産原油の輸入を続ける国(中国、インド、トルコなど)に対し、一定の価格以下で取引するよう事実上要請しました。

上限設定の効果は小さい

EUなどが今般設定したロシア産原油の価格上限は、1バレル60ドルです。それを超える価格でロシア産原油を輸入する場合、タンカー事故による損失をEUの保険会社が補償することなどを禁じたのです。

ただ、60ドルであれば、ロシアは十分に採算が取れます。よって、今般の措置を受けて原油生産を大幅に減らす、とはならないはずです。そうした見方もあり、原油の軟調推移は特に変わっていません(図表2)。これは世界のインフレを抑えますが、制裁効果が小さい以上、ロシア経済の崩壊には程遠いままです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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