英国で新首相誕生、女王死去:「衰退」は宿命なのか?

2022/09/12

英国も日本も衰退へ?

9月8日、英国のエリザベス女王が亡くなりました(享年96歳)。国民から敬愛された女王の死去は、「真の国葬」にふさわしいと言えます。ただそれは、「英国の衰退」を象徴するものになるかもしれません。

かつて植民地を広げた大英帝国は、世界を制しました。しかし、第2次世界大戦後の植民地独立につれ、人口が現在7千万人弱にすぎない英国が没落するのは、必然かもしれません。国民の過半も、「英国は衰退」との見方に同意しています(図表1)。同じく島国である日本も、英国の衰退は他人事ではありません。

サッチャー氏の実績

それでも英国は、衰退を甘受しません。1980年代には「鉄の女」サッチャー首相が、経済を立て直すべく公益事業民営化や様々な規制緩和を進めました。これにより英国は、一旦復活したように見えました。

ところが金融危機後、英国の生産性は低下してしまいました(図表2)。設備投資が不足したことなどのため、生産の効率性が十分に高まらなかったのです。来年の経済成長率は、G7(主要国と言われる7か国。日本も一員)のうち、最も低い率になりそうです。英国は、やはり衰退し続けるのかもしれません。

トラス新首相の主義

今年7月には、相次ぐ不祥事に批判が高まる中、ジョンソン前首相が辞任を表明しました(例えば同首相は、コロナウイルスの感染抑止のための行動制限を英国民に課す中、官邸でワインパーティーを開催)。

政局が混乱する中、9月6日、リズ・トラス氏が新首相に就任しました。同氏はサッチャー氏を尊敬し、減税や規制緩和といった策で英国経済を活性化しようとしています。経済保守主義(自由な市場の機能を重視)で経済を改革し、英国の栄光を復活させようというのです。ただ、それは容易ではないでしょう。

生活危機阻止が急務

実際、トラス首相の前途は多難です。英国において急務なのは、経済の抜本的な構造改革ではありません。それよりも、光熱費の高騰のため多くの英国人が生活危機に陥るのを、まずは阻止せねばなりません。

この点、トラス政権は早くも8日、大規模な対策を発表しました。家計や企業における電気・ガス料金の上昇抑制、エネルギー会社への補助金支給・金融支援などの内容です。これに伴う財政負担は、約1,500億ポンド(約25兆円)と見込まれます。これだけ巨額の対策が打ち出されたのは、やや意外なことです。

経済保守主義は無理

と言うのは、英国の財政赤字膨張が懸念されるからです。さらに、光熱費抑制策などは、国家による経済への介入です。そのような政策は、トラス氏が信奉する市場重視・「小さな政府」の思想と矛盾します。

良く言えば、トラス氏は柔軟です。しかし悪く言えば、経済保守主義はすでに破たんしたのです。こうした苦境下、「英国は衰退している」と見る人は、もっと増えそうです。また、英ポンドは今年、対ドルで約14%も下落しています。円安に悩む日本と同様、英国も、衰退していくのが宿命なのかもしれません。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
しんきん投信「トピックス」   しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会

このページのトップへ