米国取材報告①:円安は日本人の誇りを奪う

2022/08/01 <>

日米の価格差を痛感

日本の物価は、主要国の中で極めて安い方です。前から顕著なことでしたが、今年の円安により、同じ通貨で見た日本の相対的な物価安が、一段と加速しています。これが表すのは、日本経済の弱体化です。

7月に米国(シカゴとニューヨーク(写真1))への出張を行った筆者も、そのことを痛感しました。今年3月からドル高・円安が急激に進む中、この出張時には1ドル=140円に迫ったからです(足元は133円台)。ただ、ドル建てで見ても、約4年前の前回出張時に比べ、米国の物価は明らかに上がっています。

米国では賃金も増加

シカゴでもニューヨークでも、とりわけ高価なのが外食です。その値段を1ドル=140円で計算すると、日本の約2~4倍です(店により大差)。そのため筆者も、つつましい昼食を余儀なくされました(写真2)。

驚かされるのは、高価な飲食店でも、一般的な米国人客で繁盛していることです(例えば、普通のラーメンが2~3千円といった店)。米国では、賃金も増えているからでしょう。「物価高→賃金増→物価高→賃金増→」という経路を、米国はたどっているのです(ただ現在の賃金増は、物価高に追いつかない状況)。

アベノミクスの問題

そうした経路を日本に作動させようとしたのが、まさにアベノミクスでした。この点に着眼したのは、安倍元首相の鋭敏さを表します。実際、人々や企業が前向きになれば、物価も賃金も上昇するはずです。

ただ、大きな問題がありました。日銀の超金融緩和策と、それによる円安に頼りすぎたことです。そして「前向きな気持ち」が景気を良くする、といった精神論に傾く一方、経済を強くする本質的な策(高齢化対策など)が手薄になりました。その結果、円安で物価が上がった一方、賃金の増加は期待外れでした。

日銀の悲観的な見方

今も日銀は、超金融緩和策に執着しています。このため、利上げを進める米国などとの違いが際立ち、円の大幅安を招いています。円は多くの主要通貨よりも安いので(図表1)、「ドル高かつ円安」です。

小幅な利上げにも耐えられぬほど日本経済は弱い、と日銀は悲観視しているのでしょう。また、大半の企業は円安で援助されねば海外で戦えない、と日本企業の競争力を侮っているのでしょう。しかし円安で海外製品の購入が難しくなってきたことから、日本はもう豊かな国ではない、と人々は気づき始めました。

後ろ向きな気持ちに

つまり超金融緩和策、極端な円安、内外価格差は、日本経済や日本企業は弱体化した、との印象を強めます。超金融緩和や円安が続くほど、そうした悲観が日本に定着し、国民は自国への誇りを失うでしょう。

日銀の超金融緩和策が、「後ろ向きな気持ち」をもたらすものへ、当初の狙いとは真逆の効果を与えるものになってしまったのです。「前向きな気持ち」を呼び起こそう、とのアベノミクスの動機は、誤りとは言えませんでした。しかし今や、日本人の誇りを取り戻すのに必要なのは、むしろ適度の利上げと円高です。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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