この世は最悪?:インフレ、利上げ、景気減速、紛争、コロナ・・
市場の悲観論
世界は、最悪の不幸に襲われているのでしょうか。金融市場における悲観論を見ると、そう感じるかもしれません(ただ足元、極端な悲観は後退)。しかし実際は、一部の国を除き、そこまでひどくありません。
市場が最近懸念しているのは、インフレ、利上げ、それらによる景気減速です。高インフレを助長しているのは、中国のロックダウンに伴うサプライチェーンの混乱や、ウクライナ紛争などによる資源高です。いずれも、良いことではありません。しかし、世界経済にとって最悪の不幸、と言うほどでもありません。
失業率は低下
最悪の不幸とは、世界景気が極度に落ち込み、失業者が激増するといった状況です。2008~09年の世界金融危機時や、コロナウイルスの第1波が生じた2020年春頃は、そのような最悪期だったと言えます。
現在は、そうした状況とは全く違います。高インフレが特に鮮明な米国の場合、むしろ雇用環境は良く、失業率はコロナ前の低水準に接近しています。たしかに高インフレは家計を圧迫しますが、失業で所得が激減するよりは、はるかに「まし」です。ユーロ圏や日本などでも、失業率は総じて低水準です(図表1)。
正常化が進展
米国では、今年3月、インフレを抑えるべく利上げが始まりました。当面、利上げは続くでしょう。ただ、利上げなどを行えるのは、金融引締めにも耐えられるほどに経済が回復した、と判断できるからです。
逆に経済の最悪期には、利下げなど金融緩和を行わねばなりません。実際、2020年3月、米連邦準備理事会(FRB)は政策金利を大幅に引き下げました(上限0.25%へ)。感染症による景気への打撃を、金融面から和らげるためです。今の利上げは経済正常化が進んだことの証拠であり、歓迎すべき動きです。
警戒する理由
にもかかわらず、市場が米国などのインフレや利上げを警戒するのは、やむを得ません。最近の高インフレは、コロナ後の景気回復に伴う需要増に加え、製品や資源の供給制約による部分も大きいためです。
供給制約は、金融政策でコントロールすることが困難です。よって、利上げで景気が過度に冷やされる一方、インフレ率が高止まりする、というスタグフレーションが起こる可能性は否定し切れません。しかも現在の供給制約は、中国の感染症拡大やウクライナ紛争という、極めて不確かな要因が関係しています。
前向きな思考
しかし、ロックダウンなどが奏功し、中国での際限なき感染拡大という最悪の事態は避けられそうです(図表2)。紛争については、ウクライナ国民には悪夢です。ただ、核戦争や世界大戦にはなっていません。
経済もコロナも紛争も、先行きは不確かです。とはいえ、スタグフレーションなど「起こる確率は低いが最悪のケース」を想像し、過度に恐れているのが最近の市場です。人間は将来のリスクにおびえるものですが、現在は決して最悪の状況ではない、という確かな現実に着目し、前向きに考えることも必要です。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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