住宅も高すぎる:米国の金融政策と格差問題の視点から
パラレルワールド?
「パラレルワールド(並行世界)」は、実在するのでしょうか。現実世界が感染症に苦しむ一方、資産市場という特殊な世界では、昨年春以降、米欧株などが大きく上昇しているのです(足元は、やや伸び悩み)。
一見すると「別の地平」での出来事のように見えるのは、株価の上昇だけではありません。昨年、世界経済が崩壊寸前に至ったにもかかわらず、株価に加えて住宅価格も主要国で上昇し(図表1)、今もそれが続いているのです。これは住宅保有者にとって歓迎すべきことですが、住宅高の弊害も目立ってきました。
住宅価格と金融政策
住宅に関して金融市場の参加者が注視するのは、とりわけ米国における動向です。住宅価格や家賃は、米連邦準備理事会(FRB)が金融政策を講じるにあたり考慮すべき要素として、非常に重要だからです。
米住宅価格の上昇は現在加速しており(図表2)、これには複数の要因があります。まず、リモートワークの定着見通しを背景とした、広い住宅に対する需要の増加です。さらに、金融緩和に伴う住宅ローン金利の低下も、住宅購入を促しています。供給面では、木材価格の高騰などが住宅の建設を制約しました。
インフレ率への影響
住宅高に伴う家賃の上昇は、消費者物価指数などの物価指標に反映されます(米国の場合、消費者物価指数に占める家賃関連のウエイトは約3割)。したがって住宅の値上がりは、インフレ率を押し上げます。
インフレ率が高止まりすれば、FRBは、金融緩和策の修正(債券購入額の減額や利上げ)を前倒しせざるを得ません。しかし現行の金融緩和策は、昨年来の株価や住宅価格の上昇をサポートした、大きな要因です。そのため、インフレを受けた金融緩和の急激な修正は、金融・住宅市場の混乱を招きかねません。
2000年代との違い
だからこそ、住宅価格を抑えるべく緩和策を徐々に修正すべき、といった声が、FRB内からも出ています。懸念されているのは、インフレの加速に加え、住宅バブルの発生と崩壊による経済への打撃です。
ただし、2000年代の米住宅バブル時と現在では、様相が異なります。住宅ローンの審査基準が厳しくなったため、今般の住宅高をもたらしているのは、主に富裕層なのです。一方、信用力の低い人(サブプライム層)の住宅購入は困難になっており、今の住宅高は、富の格差という米国の悩みを増幅しています。
住宅高騰と格差問題
とはいえ住宅高は、経済正常化に伴い落ち着くかもしれません。旅行や娯楽などへの支出増で、住宅取得へ回る貯蓄が減る、と考えられるからです。また最近、木材は値下がりに転じています(→住宅供給増?)。
それでも米国において、住宅高による格差拡大は、コロナウイルス流行前からの大きな社会問題です。よってFRBやバイデン米政権は、これを直視せねばなりません。住宅価格は、国民生活という現実世界に対し、多大な影響を及ぼします。住宅市場は結局、パラレルワールドでも別の地平でもあり得ません。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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