米国の民主主義:インフラ投資計画が試金石に

2021/07/19 <>

優先すべきは国内問題

米国は、いわば「民主主義の宣教師」として行動してきました。しかし、ほかの国に講釈を垂れる前に、まずは自国の民主制を機能させねばなりません。この点を、バイデン米大統領は、よくわかっています。

そのことを示すのは、インフラ(経済的・社会的な基盤)投資計画における、バイデン氏の姿勢です。近年の米国では、民主党と共和党との亀裂が深まり、それが政策の策定や実行を妨げています。そうした中で、同氏は、可能な限り野党・共和党の支持も得て、米国のインフラを建て直そうとしているのです。

物的なインフラを整備

1月に発足したバイデン政権は、目覚ましいスタートを切りました。3月には、所得補助などからなる1.9兆ドル規模の大型経済対策を、早速成立させたのです。それが現在の米景気を、強力に支えています。

この対策は、感染症対応として急務でした。他方、今後数か月以内の成立が見込まれるインフラ投資計画は、長い期間を視野に入れています。ただ、米国の老朽化した道路・橋や、中国に圧倒されている次世代通信網といったインフラの整備は、早く行うべきです。その点は、民主・共和両党が理解しています。

人的なインフラも重要

そうした計画を進める上で、バイデン氏は、巧みな戦略を打ち出しています。まず、物的なインフラ投資策では、それを必要最小限にとどめようとする共和党に対し、歩み寄る姿勢を示しています(図表1)。

同時に、人的なインフラ計画(教育・育児支援、医療保険拡充など)を含む、より大規模な策では、民主党リベラル派の意向も尊重しています。この点で、今月中旬、同党指導部とバイデン政権が、3.5兆ドル規模の策で合意に至りました(詳細は未定。なお、財源として富裕層への増税などが含まれる見込み)。 

2本の路線による戦略

この戦略は、「2本の路線によるアプローチ」と呼ばれます。第一に、主要な物的インフラ投資では、超党派による成立を目指します。第二に、より広いプランを、民主党単独で実現させようとしているのです。

これは、妥当な戦略です。両党合意により物的なインフラ投資策が成立すれば、国内の結束を取り戻す、とのバイデン氏の公約が、ある程度は果たされます。同時に、人的なインフラや気候変動など、リベラル派が好む分野で改革を推進できれば、バイデン氏は共和党に甘すぎる、といった批判を和らげられます。

中国に負けないために

共和党も、物的なインフラ投資には前向きです。米国式の民主制は中国式の体制に比べ実行力が弱い、との危機感があるからです。実際、中国では鉄道などのインフラ投資が、凄まじいペースで進んでいます。

米国への各国の好感度は、バイデン政権のもとで改善しています。しかし、米国の民主主義に対する信頼は、依然低調です(図表2)。それが回復するか否かは、国内の対立を超えてインフラ投資などを実行できるか、にかかっています。これに失敗すれば、米国式民主主義への信頼は、さらに失墜しかねません。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会