原油が高い:「石油の時代」は終わっていないようだが
世界経済は危機脱出
世界経済はコロナウイルスに翻弄されましたが、さしあたり危機を脱したようです。その象徴は、原油価格です。それは昨年春の急落後、大幅に上昇し、現在の水準は感染流行前を上回っています(図表1)。
要因は、米中に主導された世界景気の回復に伴い、発電・輸送・生産用の石油需要が増えていることなどです。また、OPEC(石油輸出国機構)など産油国が、昨年の急落後に減産を決めたことが、供給面から価格を支えています。OPECは今、減産幅を縮小しつつあるものの、大幅な増産には依然慎重です。
石油企業にも追い風
原油高は、産油国の歳入を増やし財政を改善するので、その点では世界経済の安定に寄与します。また、それは石油企業の収益を増やすので、それらの株高を通じ、昨年春以降の世界株上昇に貢献しています。
ただ、各国で環境意識が高まる中、石油企業の成長性には、以前から疑問符が付けられています。そのため、欧米石油メジャー(最大手)の株価は、感染前から、他業種に比べ冴えませんでした。とはいえ、原油価格の上昇に伴い、昨年の急落後は大幅な株高を示しています。株主らにとって、ひとまず朗報です。
原油高騰とインフレ
しかし原油価格は、世界中の物価や生活に対し、多大な影響を与えます。その高騰は、ガソリン、プラスチックといった石油製品や電気などの値上がりを通じ、インフレ(物価上昇)を加速させかねません。
例えば、ユーロ圏では、5月の消費者物価指数が前年比プラス2.0%と、2年超ぶりの高い伸びを示しました。その大きな部分は、エネルギー価格の上昇によるものです(実際、エネルギーを除くとプラス0.9%)。生活者にとって重要なのはエネルギー価格を含む物価であり、その急上昇は家計を圧迫します。
当面さらに原油高か
このように、原油高にも、良い面と悪い面があります。したがって、原油価格に関して最も望ましいのは、昨年春のような急落が再発することのない一方、現行水準からの上昇も限定的、というシナリオです。
ただし当面は、原油高圧力の方が、やや優勢と考えられます。引き続き、ワクチンの普及などによる世界景気の回復傾向が、石油の需要と価格を支えると予想されるからです。もっとも、サウジアラビアなどの増産余力は大きいため、段階的な増産が石油の総供給を増やし、過度な価格上昇を抑える見通しです。
長期的には脱石油へ
再生可能エネルギーが普及してきたとはいえ、石油は依然、エネルギーの主役です(図表2)。それでも、採掘・燃焼時に温室効果ガスを排出する石油については、生産と消費を抑制するのが人間の責務でしょう。
投資家も、石油の将来に懐疑的です。先月には、メジャーの一つ、米エクソンモービルの株主らが、石油依存のビジネスの変更を求め、複数の取締役選出に成功しました。こうした投資家の圧力は、今後ますます強まるはずです。そのため、最近の原油高は、石油産業の明るい未来を約束するわけではありません。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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