恐るべきリスク?:米国の金利上昇とインフレを考える

2021/04/05 <>

市場は米国の金利上昇を警戒

コロナウイルスの流行という災難のため、人類は危機に直面しています。ところが、主要国の株価は、昨年の3月後半以降、大幅に上昇しています。これは、かなりの程度、異様なほど低い金利のおかげです。

よって、現在、市場参加者が米国の金利上昇(図表1)に対し神経質になっているのは、無理もありません。金利上昇は、企業などの借入れコスト増を招きます。また、長期金利(残存期間の長い債券利回り)の上昇で、債券に比べた株式の魅力が低下します。これらより、「金利上昇→株安」との連想が働くのです。

背景にあるのは景気拡大観測

とはいえ、米長期金利は、過去の標準的な水準と比較すれば、依然として低水準です。かつ、足元の金利上昇は、米景気の拡大観測などが要因です。そのため本来、深刻に懸念すべき金利上昇ではありません。

実際に今年、米国の経済成長率が大幅に高まるのは、ほぼ確実です。3月、生活支援などを含む1.9兆ドルの経済対策が成立したからです。また、バイデン政権は、インフラ投資を柱とする大規模な追加対策を、続々と実施する方針です。さらに、ワクチンの普及による経済活動の活発化も、十分に期待できます。

問題はインフレ率と金融政策

ただし、経済対策により景気を過度に刺激した場合、インフレ(平均物価の上昇)の問題が浮上します。景気拡大は、労働や物品・サービスへの需要を増やし、賃金や物価を押し上げる、と考えられるためです。

それが過熱した場合、米連邦準備制度理事会(FRB)は、超低金利政策の修正を迫られるでしょう。政策金利を2023年末まで据え置く、というのがFRBの基本姿勢ですが、インフレが過熱すると、そうした余裕は乏しくなるからです。利上げも長期金利の上昇要因であり、そのため、株安要因となり得ます。

インフレ自体は害悪ではない

米国のインフレ率は、FRBが目標とする2%をまだ下回っています(図表2)。しかし今後、それが上昇することを、覚悟せねばなりません。米景気の拡大に加え、原油などの資源高も、インフレの理由です。

焦点は、インフレ率の上昇は一時的なのか、最高でも2%台で上昇が止まるのか、です。そもそも、インフレもデフレ(平均物価の下落)も、一概に悪とは言えません。それらが経済全体にとって害悪となるのは、大幅な物価変動が制御不能なものと化し、個人や企業などの消費や投資に支障をきたすときです。

結局、金利の上昇は限定的か

米国で、それほどのインフレが起こる可能性は低いでしょう。物価の持続的上昇をもたらすのは、特に賃金の増加ですが、米国の失業率はまだ正常化に遠いため、賃金増は当面、緩慢と見込まれるからです。

また、米国の経済成長については、来年にはペースが鈍る見通しです。経済対策の多くは、今年に集中するからです。したがって、景気拡大やインフレを理由とする米長期金利の上昇は、近い将来に落ち着きそうです。よって、少なくともウイルスによる健康の危機に比べれば、金利上昇は、全く些細な問題です。

 

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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