米英の社会主義化:「300年に一度」の大変化

2021/03/29

金融危機の原因は米欧資本主義

2008~09年の世界金融危機は、「100年に一度」の危機と呼ばれました。しかし、コロナウイルスによる現在の経済・健康危機は、それとは比較にならぬほど重要な事件として、歴史書に記されるでしょう。

金融危機をもたらしたのは、行き過ぎた資本主義(ネオリベラリズム)でした。 利己主義に基づく競争こそ最善と信じ、政府の経済介入や規制を極力排除する(「小さな政府」)ものです。それを背景に米欧などで無責任な金融商品が横行した挙句、特に2008年、その破たんが連鎖し、金融機能が麻痺したのです。

「小さな政府」→「大きな政府」

それは、米欧経済体制の挫折、と言うべき経験でした。にもかかわらず、以後、米欧流資本主義はほとんど修正されませんでした。金融規制が一旦強化されたこと以外、特段の変化は起こらなかったのです。

しかし今、思想と政策の本質的変化が、ついに始まりました。第一に、過度な利己主義を慎み他者の健康を重んじる、利他と公共の精神が広がりつつあります(良い意味での社会主義色の強まり)。第二に、社会の安寧を保つには政府の役割が非常に重要、との考え方に立つ政策が普及しています(「大きな政府」へ)。

感染抑止には公共の精神が必要

そのような変化を世界中で引き起こしているのが、コロナウイルスによる危機です。これは、世界金融危機がなし得なかったことです。だからこそ、歴史的意味において、双方の重要度は全く異なるのです。

実際、感染を抑止するには、公共の精神が求められます。自身が感染している可能性を踏まえ、他者への感染を防ぐべく、マスクの着用や他者との接近回避を心がけねばならないからです。また、活動制限により困窮する人への支援や、ワクチンの効率的な接種を行う上では、政府が主導権を担わねばなりません。

米国で社会主義的な政策が実現

変化が特に目立つのは、資本主義の総本山と言うべき米国、および英国です。いずれも主要国中、ウイルスによる犠牲が顕著な国です(図表1)。そのショックは、本質的な変化を促すほどに強力だったのです。

米国では、昨年来、「大きな政府」を志向する経済対策が相次いで実現しています。その規模は計5兆ドル超と、約0.8兆ドル規模だった2009年の経済対策が「けちな」ものに見えるほどです。そして、現政権の政策は、中低所得層への現金給付や失業者への支援などを軸とする、まさに社会主義的な内容です。

英国でも歴史的な変化が進行中

それらが実現したのは、すでに米国では、資本主義への懐疑が増え、社会主義への反発が減っていることも関係しています。格差に対する不満などを背景に、その傾向は、特に若年層の間で鮮明です(図表2)。

同様の傾向は、18世紀に本格化した近代資本主義の発祥国、つまり英国でも確認できます。これを受け、その現政権も、政府の経済戦略、首都と地方との格差是正など、社会主義的な政策を前面に掲げています。こうした意味で、21世紀のウイルス問題は、「300年に一度」の大変化を促している、と言えるでしょう。

 

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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