米国の抗議デモとコロナショック:株高を満喫している場合か?

2020/06/09 <>

株価は好調だが現実世界は激動

3月下旬以降、米国株などは好調です。これをみると、新型コロナウイルスの猛威は、まるで別世界の出来事のようです。しかし実際には、この現実世界で、それ以外にも大事件が幾つも発生しています。

特に米中関係の緊張、および米国での抗議デモです。前者は国際秩序の変動を、後者は米国の根本問題を、それぞれ端的に示しています。本来ならば、金融市場もそれらを素通りできません。最近の株高の根拠である「コロナショック後の景気回復」というシナリオが、これらにより狂いかねないからです。

米国における積年の怒りが爆発

米中の緊張については、今さら驚くことではありません。一方、米国の抗議デモは、この種のデモとしては1968年以来の大規模なものです。それだけに、その映像は世界中に鮮烈な衝撃を与えています。

発端は、5月25日、警官が黒人男性を暴行し、死亡させた事件です。これを受け、警官の横暴(図表1-①)や格差(同-②)への積年の怒りが爆発し、多様な人種によるデモが全米各地と世界各国で起こっています。デモ自体は民主的な権利であり、大半は平和的です。ただ、一部が暴徒化してしまいました。

コロナショックで問題が表面化

コロナウイルスの流行も、デモと大いに関係があります。米国では、外出制限などのため人々のストレスがたまっているからです。ただし、このデモはストレスの一時的な発散、とは矮小化できません。

デモの根底にあるのは、米国における不公平感です。コロナショックでは、特に人種的少数派の暮らしが脅かされています。ウイルスによる死亡率も、人種間で大差があります。栄養の摂取や医療へのアクセス(図表1-③)などの差異のためです。そうした根深い問題が、コロナショックで表面化しました。

景気回復シナリオも危うくなる恐れ

このデモをめぐり、米国内の論調は割れています。リベラル寄りのメディアは、人種に関連した不正義の是正を訴えています。一方、保守系メディアは、暴徒に焦点を当て、それを厳しく批判しています。

このような状況は、社会の亀裂を一段と深めかねません。また、デモ隊と警官隊の衝突で、都市の治安が危ぶまれています。加えて、デモ参加者の密集や発声で、コロナウイルスの感染が再拡大する恐れもあります。それらのため外出規制の再強化を迫られれば、米景気の回復シナリオも変調をきたします。

トランプ大統領の危険な選挙戦略

ここでリーダーに求められるのは、融和の呼びかけです。しかしそれは、トランプ大統領の流儀ではありません。デモ隊を敵視した表現や「略奪には射撃を」といった発言で、火に油を注いでいるのです。

トランプ氏は、保守派の人気を得ようと必死なのでしょう。11月の大統領選に関し、同氏が劣勢となっているからです(図表2)。そのため同氏は、今後ますます分断をあおる選挙戦略を採用しそうです。よって、米国の根本問題に無関心な金融市場も、株高を満喫している場合ではなくなるかもしれません。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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