ブラジルの三重苦:コロナウイルスを甘くみていないか?

2020/06/01 <>

脅威は去らず

金融市場は、もうコロナショック後を見据えています。しかし新型コロナウイルスの脅威は、全く過ぎ去っていません。それを理解し、気を引き締めるには、アジアや欧米以外にも視野を広げるべきです。

当初危惧されたのは、このウイルスが中国以外の新興国で大流行することでした。そういった国は、政府の統制力や医療の水準、被害者を支援するための経済力など、多くの点で不安があります。そのためそうした新興国で感染が広がれば、もはや収拾がつかなくなり、世界中に感染を再拡大しかねません。

感染の中心地はブラジルへ

南米の大国、ブラジルで、まさにその危惧が現実のものになっています。新型コロナウイルスによる新規の死亡者数において、今やブラジルは、累計死亡者数が世界一の米国にほぼ並んだのです(図表1)。

ブラジルでは、このウイルスによる最初の死亡者が出てから、75日以上が経過しました。この国が特異なのは、現在に至ってもなお、死亡者数の減る様子がみられないことです(多くの国では、50日前後で新規の死亡者数が減少傾向に)。ウイルスの抑止に関し、ブラジルは失敗したと言わざるを得ません。

大統領と州知事の対立

ブラジルでの感染拡大には、様々な理由が挙げられます。例えば、人口密度の高いファベーラ(スラム街)では、ソーシャルディスタンス(他人との距離)の確保などが、ほとんど不可能であることです。

ただ、そうした条件は、ほかの多くの新興国でも同様です。よって、ブラジル固有の理由としては、対策の混乱を挙げねばなりません。つまり、経済を優先しウイルスのリスクを軽視するボルソナロ大統領と、人命を優先し外出規制などに前向きな州知事との対立が、一貫したウイルス対策を妨げたのです。

不安が残る中、経済活動を再開

それでも、ブラジル最大の都市サンパウロなどの州知事は、大統領と衝突しながらも、厳しい外出規制を導入しました。4月上旬頃まではそれが総じて守られ、ウイルスの犠牲者も当初は抑制されました。

しかしブラジルは、米国と同じく連邦制ではあるものの、米国よりは中央集権的です。そのため、経済活動の再開を急ぐボルソナロ大統領の圧力に抵抗し切れず、現在、各州で工場の操業などが順次再開されています。また、大統領の態度に影響され、ソーシャルディスタンスを軽視する人も増えています。

三重苦の泥沼に

ブラジルでは失業者が急増しており、経済活動を再開せざるを得ない、との事情もあります。しかし、ウイルスを全く抑止できておらず、検査体制も不備である中での経済再開は、大きなリスクを伴います。

しかも大統領は、ウイルス対策の失敗などで、求心力を失っています。景気の急回復は見込みがたく、通貨価値も大幅下落です(図表2)。ブラジルは当分、人命被害・景気悪化・政治不信の三重苦から脱出できないでしょう。リーダーがコロナウイルスの脅威を甘くみたことが、この苦しみを招いたのです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会