コロナショックと原油減産:対立や不和を越えて、産油国が協調
需要激減で原油価格が急落
対立や不和を越え、4月12日、主要産油国が協調減産を決めました。世界がコロナウイルスという共通の敵と戦っている今、避けるべきは国と国との対立です。よってこの協調を、まずは歓迎すべきです。
原油価格は一時、年初の水準から7割近くも下落しました(図表1)。世界各国は現在、ウイルスの感染を抑止すべく移動や商業を厳しく制限しています。これに伴う原油需要の激減が、原油安の主要因です。そのため一層の原油安を防ぐには、協調減産により原油供給(≒生産)を減らすことが急務でした。
コロナとの戦いを優先
にもかかわらず3月上旬には、世界三大産油国のうちの二つであるサウジアラビアとロシアが対立し、協調減産に失敗しました。怒ったサウジアラビア側は逆に生産増を表明し、原油安に拍車をかけました。
しかしこれだけの急落は、サウジアラビアやロシアにも想定外でした。この価格水準では、原油輸出に頼る双方の財政が悪化します。しかも今、いずれもコロナウイルスの拡大に直面しており、これを抑えるには潤沢な財政資金を要します。それだけに、減産による原油価格の下支えが強く求められました。
原油価格の下支えは世界全体の利益
そのような事情は、ほかの産油国にも広く当てはまります。と言うより、経済がもっと弱く、政治がより不安定なアフリカなどの産油国にとって、原油価格が下げ止まるか否かは、まさしく死活問題です。
原油輸入に頼る日本には、原油安は朗報かもしれません。とはいえ、今は世界全体の安定を優先すべきときです。よって、産油国を疲弊させる極端な原油安は望ましくありません。また、原油安でガソリン価格や航空料金などが下落しても、外出や旅行が制限されている現在、あまり恩恵を味わえません。
トランプ米大統領が多大な貢献
原油価格の下支えが待望される中、今回の減産措置を主導したのは、米国のトランプ大統領です。サウジアラビアとロシアの首脳に働きかけ(制裁措置もちらつかせながら)、協調減産を納得させたのです。
米国は今や世界一の産油国です(図表2)。このため極端な原油安は、国内の石油産業に甚大な打撃を与えます。石油企業の苦境が深まれば、社債の債務不履行を通じ金融危機を呼ぶ恐れもあります。よって減産を成功させたのは、トランプ氏の二番目に大きな功績と言えます(最大の功績は北朝鮮との融和)。
原油価格の低迷は続きそうだが
ただし今回の減産は、原油需給を劇的に引き締めるわけではありません。明示的な減産規模は日量970万バレルですが、コロナショックに伴い、その2~3倍の原油需要が世界全体で減少しているからです。
よってこの減産は、1バレル=10ドルを割り込むような原油安を防ぐ、といった効果にとどまりそうです。しかしそのことは、減産の意義を減じるものではありません。この暗闇の中でも世界の結束は可能であり、かつ、リーダーとしての米国は健在であることを、今回の協調減産は鮮やかに示したのです。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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