世界景気と金融市場:それらを支える「適度な」貿易摩擦

2019/11/21

過度な悲観は和らぐ

米中貿易摩擦は、生産や消費、投資など経済活動に携わる人(つまりほとんどの人)にとって迷惑であるはずです。ただ、その激化は避けられるとの見方などで、株価は一旦大きく上昇しました(図表1)。

たしかに近々、米中は部分合意に至る可能性が高そうです。これを受け相互の関税が引き下げられれば、貿易や生産への追い風となります。そうした観測で、世界経済への過度な悲観もひとまず後退しました。ただし経済成長率(図表2)など各国の状況は、明るい面と同時に不安な面もまだ含んでいます。

米国:逆イールドは偽りのサイン?

米国では、消費が底堅さを示しています。もうすぐ始まる年末商戦も、まずまずの盛り上がりをみせそうです。米国はリセッション(2四半期以上続くマイナス成長)に陥る、との懸念も和らいでいます。

リセッションのサインと騒がれた逆イールド(短期国債の利回りが長期国債の利回りを上回る状況)も、すでに解消しています。ただ、①逆イールド発生→②逆イールド解消→③それでも(①の1~2年後に)リセッション入り、と推移する場合が多いため、景気強気派が勝利宣言をするには時期尚早です。

欧州:英国、ドイツはリセッション入り回避

欧州主要国は、緩やかな経済成長を示しています。政治が混乱している英国も、リセッション入りを免れています。ただ、欧州連合(EU)離脱などをめぐる不透明感などで、設備投資などは低調です。

ドイツも4-6月期にマイナス成長となった後、7-9月期は小幅なプラス成長へ転じました。製造業不況が雇用や消費にも波及、との動きは、まだ目立ってないのです。ただし、リセッション入りが回避されたため、財政支出で景気を刺激する緊急度は低下しました。よって当面、低成長にとどまるでしょう。

アジア:中国の成長率鈍化は既定路線

中国については、景気減速が続いています。とはいえ、金融市場ではあまり悪材料視されなくなっています。これだけ巨大化した国の成長率が鈍化するのは自然、との理解が浸透しつつあるのでしょうか。

中国の影響を強く受ける韓国や台湾がプラス成長を維持しているのは、明るい材料です。一方、日本は、7-9月期も韓国などを下回る成長率にとどまりました。もっともこれに関しては、増税前の駆け込み需要が(よって10月以降の反動減も)限定的だった証拠だという、やや前向きな解釈もみられます。

適度な不安は残存→金融緩和・低金利継続→資産価格にポジティブ

このように各国経済はプラス成長とはいえ勢いを欠き、インフレ率も低位です。米中の摩擦については、哲学の違いが根本にある以上、部分合意は可能でも、数年で完全に和解できるとは考えられません。

ただ、だからこそ各国は金融緩和などで景気を支えねばなりません。低インフレなどを映じ、長期金利(国債利回り)も低位で推移しそうです。これらは、株式や不動産には好条件です(国債に比べた魅力が向上)。逆説的ですが、貿易摩擦は(激化しない限り)、資産価格を間接的に支える面もあるのです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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