米金融政策と新興国リスク:アルゼンチンの悲哀が浮き彫りに

2019/11/06 <>

昨年は利上げ、今年は利下げ

経済情勢は短期間で変わり得ます。この1年で最も大きく変わったことと言えば、米国の金融政策でしょう。これに伴い、金融市場の動きも顕著に変化しました。正常化と言える、良い方向への変化です。

つまり、米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年、他国に先んじて4回も利上げを行いましたが、今年は利下げ姿勢へ大変身したのです。10月末には、今年3回目の利下げを行いました(来年前半までに、もう1回利下げを行う可能性あり)。インフレが結局過熱しなかった以上、妥当な政策修正だと言えます。

昨年は、新興国リスクが一斉に伝染

昨年は、米国の利上げに伴い、より高い利回りを求める投資資金が米国へシフトする、というストーリーが流行しました。そうした物語の犠牲になったのが、米国への資金流出に見舞われた新興諸国です。

それに拍車をかけたのは、トルコとアルゼンチンの政治・経済不安です。これを受け両国の通貨は暴落しましたが、ほかの新興国通貨も、新興国ということ以外にはあまり理由もなく売られたのです(ただし下落幅は様々、図表1)。特にアジア新興国は、不運にも「とばっちり」を受けたと言うべきです。

今年は、個別事情に着目した反応

今年は、トルコ経済については安定しつつあるものの、アルゼンチンの状況は一段と厳しくなっています。同国のインフレ率は約50%と(図表2)主要国で最も高く、通貨ペソの下落も止まっていません。

しかし今年は、そのような経済危機が他国に伝染していません。中でもアジア新興国の通貨は、比較的健全な財政や低いインフレ率などが評価され、総じて安定的な動きを示しています。米国が先走った利上げを巻き戻した結果、金融市場は、各国の実体に着目した正常な反応を示すようになったのです。

あれから1年、恐れていたことが現実に

ただアルゼンチンには、悲哀を感じずにはいられません。筆者は昨年の今頃に同国を訪れ、その苦境の根深さを知ったからです。さらに、市場や財界の恐れていたことが、ついに現実のものになりました。

つまり10月の大統領選で、現職のマウリシオ・マクリ氏が破れ、「ペロン党」の人物が勝利したのです。中道右派のマクリ氏は、為替自由化や財政再建など市場好みの政策姿勢です。一方、左派のペロン党は、以前の政権担当時、貿易規制や安易な補助金で経済を破壊した、と市場では忌み嫌われています。

新大統領には期待も持てそうだが・・・

もっとも、市場と一般人の見方は一致しません。為替自由化・ペソ安による高インフレに苦しむ低所得層などでは、マクリ氏の支持率が低いのです。よってペロン党の復権は、自然な流れかもしれません。

12月に大統領となるアルベルト・フェルナンデス氏は、同党では穏健派で、有能な人です。それでも、高インフレや対外債務に悩む停滞国、アルゼンチンの前途は多難です。世界の金融市場は短期間で正常化へ向かいましたが、この美しい国に限れば、人々に安心が訪れるには、長い時間がかかりそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会