カナダの政治経済と思想:いま注目される米国との違い

2019/10/29 <>

苦戦の末、トルドー氏勝利

カナダは絶景などで有名ですが、人口や経済規模は日本の3分の1程度です。また、隣の超大国・米国の陰に隠れがちです。しかし、10月21日に行われた総選挙は、極めて興味深いものになりました。

選挙戦で苦戦を強いられたのが、ジャスティン・トルドー首相です。同首相が率いる中道左派の自由党は、中道右派の保守党に敗れる可能性が相当あったのです。しかし結局、自由党は多くの予想よりは健闘し、第一党の座を守りました(図表1。ただ、金融市場はあまり反応せず)。首相の続投も確実です。

「若気の至り」では済まされない

それでも、自由党は議席を減らし、過半数を失いました。よって今後、法案を通すには他党(特に、左派の新民主党)の協力を要します。自由党の苦戦は、首相の複数のスキャンダルが関係しています。

先月には、18年前のパーティーにおいて、トルドー氏がふざけて有色人種に仮装していたことが発覚しました。これにより、少数民族の権利保護を訴える同氏のリベラルでさわやかなイメージが、傷ついてしまったのです(国のトップによる過去の言動を厳しく追及する点は、カナダの健全なところですが)。

景気は米国よりも良い

それに限らず、総選挙では政策内容よりも各党首らの人格や行状に焦点が置かれ、やや醜い中傷合戦もみられました(それでも、米国の大統領選に比べれば、はるかにクリーンで落ち着いた選挙でしたが)。

とはいえ政策論争が熱気を欠いたのは、おおむね順調なカナダ経済の反映とも言えます。失業率が過去最低水準にあるなど景気は悪くないので、経済論議が盛り上がりにくいのです。実際、政策金利は据え置かれ(図表2)、年内の利下げもなさそうです(よってカナダドルは当面、対米ドルで底堅い推移か)。

「トランプ流」は論外

より根本的な健全さとして、国内の分断が比較的浅いことが挙げられます。所得格差は米国ほどではなく、また、カナダは多民族の共生国家であるべきだという共通の思想も、ほとんど揺らいでいません。

事実、カナダの人口に占める移民比率は米国以上で、トルドー首相は難民に対しても寛容です。右派である保守党も、総選挙では反移民感情をあおるようなキャンペーンは極力控えました。米国の「トランプ流」を真似た反移民のナショナリズム政党も存在しますが(人民党)、この党は見事に惨敗しました。

リベラリズム最後の砦

ただ、国内に亀裂が走るとすれば、エネルギー政策に関してです。トルドー政権は環境保護策に一層注力すると見込まれますが、カナダ経済において重要な石油産業や、それに頼る州の反発は必至です。

よってトルドー首相には、高い理想とともに地域経済にも配慮した舵取りが求められます。その成否を、西洋文明の現状を憂う人々が注目しています。米英が方向を見失った現在、多様性の尊重などリベラルな価値をしっかりと守っている点で、カナダは(ドイツなどと並び)希少な国の一つだからです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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