サウジ石油施設への攻撃:本当の緊張とはどういうものか?

2019/09/24

極東よりも中東

国々の敵意と激烈な宗派争いが絡み合う中東情勢は、世界一危険なものです。それに比べると、日本のメディアなどが熱中する日韓の「緊張」などは、極東の地での単なるパフォーマンス合戦にみえます。

その中東で、世界を揺るがしかねない事件がまたもや起こりました。9月中旬、サウジアラビア(以下、サウジ)の主要な石油施設が、ドローンやミサイルを用いた何者かによる攻撃を受けたのです。サウジは世界最大の石油輸出国です。その産油能力の半分超が、攻撃で一時麻痺する事態になりました。

原油高はひとまず一服

攻撃の後、供給懸念から原油価格は一時約20%も上昇しました。とはいえ数日で落ち着き、昨年比でみると、まだかなりの低水準です(図表1)。市場があまり慌てていないのは、妥当な反応だと言えます。

というのも、サウジ、米国、日本などの石油備蓄は潤沢なので、すぐに石油不足が深刻になるわけではないからです。また今の世界は、エネルギー源の多様化などのため、以前よりは石油依存度が下がっています。原油高が世界不況をもたらした1970年代のオイルショック時とは、状況が異なるのです。

紛争拡大のリスクは?

ただし原油がさらに高騰すれば、石油輸入量の大きい中国、日本などの経済に悪影響を与えます。米国については今や大産油国ですが輸入量も依然大きく、ガソリン高による家計の負担増が懸念されます。

当面の注目点は、サウジの産油能力がいつ復旧するか、です。数週間でほぼ復旧する、とサウジはアピールしており、そのとおりだとすれば一段の原油高は限られるでしょう。しかし、地政学リスク(軍事的・政治的リスク)の見地からもっと重要なのは、さらなる攻撃や報復で紛争が広がらないか、です。

サウジとイランの直接対決の可能性は低い

サウジへの攻撃には、イランが関与した模様です(直接か間接かは不明)。イスラム教シーア派の代表格であるイランとスンニ派の盟主サウジは、イエメンなどで凄惨な代理紛争を行っている仇敵同士です。

それでも、サウジとイランが直接対決に至る可能性は低いと言えます。双方とも軍事強国であるため、戦争で失うものが大きすぎるのです。サウジもこれを望んでおらず、今回も、イランに対するサウジの非難は控えめです。むしろイランを激しく非難しているのは、軍事・経済面でサウジと親密な米国です。

イランと米国の戦争も考えにくいが・・・

もっとも米国は、イランの核開発疑惑などをめぐり、最大限の経済制裁(イランの石油輸出阻止など)をすでに実施中です。よって米国に残された手段は、イランへの軍事行動以外、ほとんどありません。

しかし米国民は厭戦(えんせん)気分なので(図表2)、米国が自ら開戦する可能性は低いでしょう。また、米国がイランを攻撃する法的根拠も薄弱です。ただ、米国が中東の安定に貢献できなくなった今、この地の緊張は解決困難です。両国民の意志さえあれば和解可能な日韓関係とは違い、これは本当の緊張なのです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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