貿易摩擦と逆イールド:時代は変わり、経験則が通じない世界に
二つの異常事態
将来のことは常に不確実です。ただ、いまの世界経済や金融市場で起こっているのは、過去の経験則が通じない異常な事態です。そうした不確実性に焦点が当たった先週、米国株などが一時急落しました。
異常な事態とは、主に次の二点です。第一に、トランプ米政権が中国などに仕掛ける貿易摩擦です。第二に(一点目の影響もありますが)、国債利回りの世界的な急低下です。しかし結論を言えば、いずれも危機を示すような局面にはなく、これらを理由とした株価急落は、市場の過剰反応だと思われます。
米政権の保護主義化
一点目の貿易摩擦については、トランプ米大統領の不規則発言のため、予測の難しい状況です。特に懸念されるのは、将来の不確実性から、各国企業が設備投資などを先送りする動きがみられることです。
米国の相対的な地位低下は、歴史の必然でしょう。そのため中国などに対する「制裁」(関税など)は、米国の悪あがきにしかみえません。そして、自由貿易を主導してきた米国の政権が保護主義へ転じたという現実は、世界秩序の激変を予感させます。そうした感覚は、将来の不確実性を余計に増幅します。
米国民は堅実で冷静
とはいえ米国を冷静にみると、深刻な景気後退が近いとは言えません。実際、個人消費は依然堅調です。しかも金融危機前とは違い、住宅ローンなどの負債膨張といった不均衡は認められません(図表1)。
米政権の保護主義については、グローバル化の潮流を完全に止める勢いはありません。米国民の多くは、いまも自由貿易を支持しているのです(今月の世論調査では、自由貿易を支持:64%、不支持:27%)。米政権が最近、中国製品への追加関税の一部を先送りしたのは、そのような世論への配慮からでしょう。
マイナス利回りと逆イールド
異常な事態の二点目である利回り低下に関しては、マイナス利回りをつける債券の規模が欧州・日本を中心に膨れ上がっています(図表2)。かつての常識ではあり得なかった、まさしく異常な事態です。
米国では先週「逆イールド」が一時生じました(10年物の国債利回りが2年物を下回る状況)。長期金利は景気・インフレ見通しを反映するので、その急低下や逆イールドは投資家の景気後退懸念を表す、とされます。過去のほとんどの例でも、逆イールド発生後1~2年で米国はマイナス成長に陥りました。
歴史は必ずしも繰り返さない
しかし2008年の金融危機後、債券市場は異常な金融緩和などでゆがめられています(米欧日の中央銀行による債券買入れなど)。そのため長期金利は、景気を示すシグナルとは言いにくくなっています。
したがって、過去の理屈や経験則を用いて「逆イールド」は景気後退の前触れ、と即断するのは軽率です。金利の急低下も、異常な金融緩和や投資家の予想を反映したものにすぎません。この不確実な世界で、債券の投資家だけは将来を見通せる特殊能力を備えている、と考える理由などあるのでしょうか?
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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