欧州取材報告⑤:英国の将来は厳しい

2019/08/14 <>

ブレグジットはどこに?

ロンドンは相変わらず躍動感にあふれ(写真1)、ブレグジット(英国の欧州連合(EU)離脱)という不穏なイベントを控える街には全くみえません。しかし離脱期限の10月末は、刻々と迫っています。

実際のところ、ブレグジットは経済危機をまき散らすようなものではないでしょう。たとえ「合意(公式の協定)なき離脱」となっても、無法状態が出現するわけではありません。最低限の「非公式の了解」は、英国・EU間で予め形成されるはずだからです(例えば在英EU市民、在EU英国民の居住権維持)。

予想される金融市場の動き

とはいえ「合意なき離脱」の場合、通関手続きなどで混乱が生じます。それがどの程度のものになるのか、誰にもわかりません。そのため大半の離脱派議員も、本音では、そうした離脱を避けたいのです。

しかし強硬な離脱派のジョンソン首相が先月就任し、「合意なき離脱」の可能性が高まっています。それでもまだ50%以下の確率とみられ、市場には十分織り込まれていません。よってそれが確定的となれば、ポンドは対ドルで10%超、急落しそうです。また、リスク回避の動きで円の全面高が見込まれます。

英国が失ったもの

「合意なき離脱」による為替などの急変動は、時間がたてば落ち着くとみられます。一方、英国・EU間で離脱協定が結局成立し「合意ある離脱」となった場合、直ちに市場は安心感に包まれるでしょう。

しかし離脱がどんな形であれ、ブレグジットは英国に大きな禍根を残します。英国は、議会(写真2)制民主主義の元祖であり模範でした。ところが党派対立のため国内で離脱協定をまとめられず、当初の期限(今年3月)は、延期を余儀なくされたのです。これにより失墜した英国の評判は、修復困難です。

楽観論への疑問

それでも、EU離脱により英国は他国と柔軟に通商協定を結べるようになるため、ブレグジットは英経済にポジティブ、との主張も散見されます。しかしこれには、次のような理由から疑問符がつきます。

第一に、協定締結を急げば相手国から足元をみられ、英国に不利な協定を強いられます。第二に、これまでEUが通商政策を担ってきたため、英国にはその人材が不足しています。第三に、EU離脱後も英政治の混乱は収まりそうにないので(解散総選挙の可能性も)、通商交渉を行う余裕は乏しいでしょう。

国内の亀裂も修復困難

ブレグジットが英経済に(少なくとも短期的には)ネガティブなのは、離脱派の多くも知っています。しかし、ではなぜEUから離脱すべきなのか、という議論は、英国でもあまり行われなくなっています。

離脱派と残留派は、現在も拮抗しています(図表1)。にもかかわらず離脱派は、本質的な議論を避け、国民投票で示された「人民の意志」を尊重すべき、の一点張りです。これでは健全な民主主義と言えず、国内の亀裂は深まるばかりとなります。目にみえない部分で、英国の基盤は確実に蝕まれているのです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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