欧州取材報告①:ブレグジットの背後に横たわる深い溝

2019/07/18

試練との向き合い方

悲しみや不安を和らげるには、状況を前向きに解釈することが有効です。ブレグジット(英国の欧州連合(EU)離脱、期日は今年10月末)に関しても、そうした精神安定の機制が働いているようです。

7月前半、英国と大陸欧州(ベルギー、ドイツ)を訪れました。どの国でも、ブレグジットがどういった形になるのか、経済への影響はどうなのか、誰も確信をもっていません。そのためブレグジットをめぐる疑問は残りましたが、はっきり感じられたのは、それぞれが前向きな解釈へ傾いていることです。

英国:「合意なき離脱」を、やや楽観的に覚悟

英国(写真1)では案外、事態が楽観視されているようでした。「合意(離脱協定)なき離脱」の現実味が増しているものの、政府や大企業はそれに備えているので混乱は限定的、という見方も多いのです。

筆者が前回訪英した2年前は、ブレグジットがいかに国益を害するか、金融機関や財界の人は嘆いたものです。しかし今回は、ロンドンには人材が集積しているので、国際金融センターとしての地位はブレグジット後も不変、といった自信が見て取れました。現実を嘆いても仕方がない、と悟ったようです。

大陸欧州:ブレグジットへの不満と期待

大陸欧州では、英国に対する不満がたまっています。EUには、移民や環境、他国との貿易交渉など懸案が山ほどあります。そんな中で英国が、ブレグジットという余計な騒ぎを長引かせているからです。

ただ、英国に都合の良すぎる条件でのブレグジットは認めないという点で、EUは強固に結束しています。また、ブレグジットを契機に企業の一部が大陸欧州へ移る動きも見込まれています。よってブレグジットはむしろチャンス、との見方が、ドイツ(フランクフルト)の公的機関などでは聞かれました。

溝は埋まらない

英国と大陸欧州との溝は、最近になって生じたものではありません。歴史をみると、両者はほぼ常に緊張関係(例えば中世や18世紀は英国vsフランス、20世紀前半は英国vsドイツ)にあったのです。

思想や体制の面でも、民主主義と資本主義を長らく固守してきた英国と、独裁や社会主義に走りがちな大陸欧州とは大きく異なります。地理的にも、海峡で隔てられた英国と大陸欧州の間は、実際以上の距離が感じられます。これらのため英国では、もともと「欧州人」という意識が低いのです(図表1)。

結局、どう解釈すべきか?

それらに鑑みれば、英国がEUから離脱するのは自然の成り行きだと理解できます。ただし、ブレグジットをめぐる騒動は英国、大陸欧州の双方に責任がある、という「どっちもどっち」論は誤りです。

つまりその混乱は、明らかに英国側の責任です。一方的に離脱を通告した上、離脱条件を国内でまとめられないのは英国の方なのです。英国のこのような混迷は、民主主義の思想を尊敬する人(筆者も)には悲しいことです。ただブレグジット自体は、「自然な状態に戻ること」だと前向きに解釈できます。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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