世界金融緩和競争:日本は無益な競争に反対すべき

2019/06/25 <>

危ういプレゼント

金融緩和は株式投資家へのプレゼントです。最近も欧米の金融緩和(政策金利の引下げ、中央銀行による資産買入れなど)期待から、世界的に株高が進みました。ただ、こうした株高は危うさも伴います。

理屈上、金融緩和はたしかに株高要因です。緩和観測で通常は国債の利回りや貸出金利も下がるため、株式の相対的魅力が増す上、企業の資金調達が容易になり得るからです。しかし金融緩和の景気刺激効果には、自ずと限界があります。それは、緩和頼みの日本が低成長を脱せない現状をみれば明らかです。

ECBが緩和姿勢を鮮明に

先週の動きとしては、まず18日、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が金融緩和に積極的なコメントを発しました。背景には、ユーロ圏の低成長、低インフレ、米国発の貿易摩擦への懸念があります。  

ドラギ総裁は10月に任期を終えるので、それまでにECBの緩和路線を固めておきたい、との狙いもあるようです。こうした姿勢を受け、ドイツなどユーロ圏の国債利回りは大きく低下しました。金利低下は、少なくとも短期的には通貨安要因です。実際ユーロは、対ドル、対円などで一時急落しました。

FRBも早期利下げを示唆

ユーロ安・ドル高にすかさず反応したのが、米国のトランプ大統領です。ユーロ圏からの輸出を有利にするため、中国などと同様、ECBは為替を不当に操作している(ユーロ安へ誘導)、というのです。

そうしたトランプ氏の不満に配慮したのかどうかはさておき、翌19日、今度は米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、早期の利下げを示唆しました。これを受けてFRBは7月末に利下げを開始するとの観測が強まり、為替は約3か月前の水準まで一気にユーロ高・ドル安が進んでいます。

トランプ効果は息切れか

また、米国の長期金利(10年国債利回り)は足元2%近辺と、2016年秋の大統領選でトランプ氏が勝利した頃の水準まで低下しました(図表1)。わずか2か月ほど前、誰も予想できなかった水準です。

トランプ氏(および議会共和党)の勝利で長期金利が急上昇したのは、減税などで景気が良くなり、インフレ率が上がり、利上げが進む、との観測が広がったためです。それがもとに戻ったということは、そうした好景気期待がもはや息切れしたということです。これは本来、喜ぶべきことではありません。

金融の緩和よりも貿易摩擦の緩和を

金融緩和競争で不利なのは日本です(円高が進みやすい)。日銀の緩和は突出しており(図表2)、追加緩和の余地が乏しいからです。よって日本は緩和競争に加わるのでなく、その弊害を訴えるべきです。

特に、いま金融緩和を行いすぎると「次の経済危機」時、なすすべがありません。また超低金利は、年金や保険などの運用を難しくします。したがって求められるのは緩和競争でなく、貿易摩擦に関し、米国と中国が和解することです(相互の関税撤回など)。それこそは、投資家への本当のプレゼントです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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