香港の抗議デモ:世界を驚かせた民主派の勝利
人民のパワーが政府を動かす
香港は中国の特別行政区として、高度な自治権を享受しています。それでも次第に「中国化」が進む、といった予想がよく聞かれます。しかし「香港人」という自覚は、むしろ強まっているのです(図表1)。
これを表すのが、驚くべき規模となった抗議デモです(条例改正案への抗議。主催者推計では6月16日に約200万人)。もっと驚かされたのは、デモを受け香港政府が改正案の審議を無期限で停止し、説明不足を謝罪したことです。意外にも、民主派が勝利したのです(改正案の完全撤回を求め抗議は継続)。
条例自体には妥当性も
問題の条例は、香港へ逃げた犯罪容疑者の引渡しに関するものです。それが成立すると、中国本土の政府(北京政府)に反抗する人が本土へ引き渡され罰せられる根拠となる、と危惧されているのです。
ただし、条例自体は不合理と言い切れません。実際、香港は米国や英国などとの間で、容疑者の引渡し協定を結んでいます。今般の条例改正案は、協定を結んでいない中国本土や台湾などにも引渡し可能とするものです(いま台湾から逃亡した殺人容疑者が香港にいるが、現行条例では台湾へ引き渡せない)。
北京・香港政府への不信感
また香港政府は、引渡し対象は特定の諸犯罪に限定し、政治犯は対象外、と主張しています。さらに、条例改正は北京でなく香港政府の主導によるもので、引渡しの可否も香港側が判断する、とのことです。
しかし北京政府の香港政府への影響力は、年々増大しています。このため北京政府の気に入らない人を(罪をねつ造の上)香港当局が拘束し、条例に従い本土へ引き渡す、ということが、絶対にないとは言えません。また、本土では司法より共産党が優位なので、公正な裁判を受けられる保証もありません。
香港の存在意義とは?
極端な場合、香港に立ち寄った外国人も条例の犠牲者になるかもしれません(例えば北京政府に批判的なジャーナリスト。欧米メディアが今回のデモをやや大げさに報じているのは、そのことも関係あり)。
そうしたリスクが意識されれば、香港の誇る信用や自由(図表2)が揺らぎます。拠点を他国に移す多国籍企業も増えるでしょう。すなわち問われているのは香港の存在意義であり、だからこそ、今回のデモには多数の市民や企業が共感しているのです(ただ、北京政府の報復を恐れ静観する大企業も多い)。
香港は香港
本件について、北京政府が無関与とは考えられません。デモを受けて条例改正が延期されたのも、北京の意向が働いているはずです(しかし条例自体には妥当性もあるので、完全撤回となる可能性は低い)。
北京政府も、香港の自治権を残し、その国際的地位を利用し続けたいのです(例えば米国は、香港の自治権を前提に香港との貿易を優遇)。つまり今回の騒動で示されたのは、香港市民の勇気と活力に加え、北京政府の現実的な姿勢です。これらをみると、香港の独自性はまだ守られるだろう、と確信できます。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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