ますます混迷のブレグジット:責任はメイ首相よりも与党議員に

2019/06/10 <>

無念の辞任

英国のメイ首相は6月7日、与党・保守党の党首を辞任しました。ブレグジット(英国の欧州連合(EU)離脱)という任務遂行に失敗したからです(今年3月29日が期限だったところ、10月末まで延期)。

次期党首が決まる7月末頃には、首相職も新党首に引き継がれます。メイ氏にとって無念極まりない退陣でしょう。それでも同氏は、厳しい状況下で力の限りを尽くした、と言えます。実際、昨秋にはEUとの間で離脱協定案がまとまったのです(関税同盟に英国が当面残るなど、ソフトな(穏当な)内容)。

ミッション:インポッシブル

ところが身内と言うべき保守党議員の支持が十分得られず、協定案は議会で否決されました。これは、2017年の総選挙(保守党が過半数割れ)で党内の求心力を失ったメイ氏にも、責任の一端があります。

しかし最大の責任は、保守党議員らにあります。党内にはEU離脱派と残留派が混在する上、前者にはソフトな離脱派からハードな離脱派(EUからの「独立」を最優先)まで、幅広い党派が存在します。それらを統括して離脱を実現するのは、もともとインポッシブルなミッション(不可能な任務)でした。

なぜ妥協を拒むのか?

とはいえ、いやしくも同じ党に属する以上、保守党議員の間に考え方の根本的な違いがあるわけではないはずです。にもかかわらず各議員・党派が頑固に妥協を拒んでいるのは、一見すると不可解です。

メイ首相の離脱案に反対しているハードな離脱派も、「鎖国」を目指す偏狭なナショナリストではありません。むしろ、EUの束縛を脱してそれ以外の国々との貿易関係などを強めようという、グローバリストです。この点で、メイ首相やソフトな離脱派の主張と、本質的に相容れないわけではありません。

結局、国内の政治的事情

しかしハードな離脱派は、離脱の是非を問う2016年の国民投票時、EUからの独立は英国にメリットしか与えない、といった楽観論を振りまきました。そのため、今さらソフトな姿勢に転じられません。

楽観論を信じた人々はEU離脱に賛成票を投じ(保守党支持層の6割超が賛成)、そのほとんどは今も離脱を支持しています。さらに、最もハードなEU離脱である「合意なき離脱」に関しても、楽観論が優勢です(図表1)。このため離脱派議員は(本心はどうあれ)一層ハードに、との循環が生じています。

(予想)ブレグジットはさらなる延期へ

楽観論にも理由があります。つまり国民投票での離脱派勝利後も、景気は案外底堅いのです(特に雇用、図表2)。しかし一方の残留派は、メイ首相の挫折をみて、EU離脱はやはり無理と確信しています。

この結果、離脱派と残留派の歩み寄りは、一段と困難になっています。また、新首相(離脱派のジョンソン前外相?)が離脱案の見直しを求めたとしても、EUが安易に応じるはずはありません。よってブレグジットをめぐる次の展開として最も可能性が高いのは、期限をさらに延長、というものでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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