メキシコにも関税攻撃:トランプ政権の暴走を止めるには?

2019/06/05

トランプ大統領、本領をまとめて発揮

トランプ米政権が発足したとき、第一に「移民への厳しい姿勢」、第二に「貿易相手国への不当な圧力」が予想されました。しかし全く関係のないこの二つが組み合わされようとは、思いもよりませんでした。

5月末、トランプ大統領はこの予想外のことをやってのけました。米国への「不法移民」を阻止する対策をメキシコが行っていない、との理由で、メキシコの全製品に対し関税を課す旨を表明したのです(6月10日から5%。以後メキシコの移民対策が不十分な場合、段階的に25%まで引き上げる方針)。

メキシコとの信頼関係を破壊

この関税は米国内でも猛反発を受けており、実施は先送りされる可能性もあります。それでも突然の関税表明によるショックは大きく、米中貿易摩擦に伴う5月からの株安(図表1)が一旦加速しました。

市場が驚いたのは当然です。米国とメキシコ(とカナダ)は昨年後半、北米自由貿易協定(NAFTA)の改定案で合意し(各国議会の批准待ち)、信頼を回復したばかりだったからです。新協定でも、相互の貿易は(所定の条件下で)無関税です。今回の一方的な関税は、そうした信頼関係を壊す暴挙です。

「貿易戦争」の戦線拡大か?

また米国は現在、最大のライバルである中国との間で、貿易や先端技術などの分野で激しく争っています。そのため中国との攻防に集中すべく、他国との問題は後回しにする、との見方もありました。

しかし対メキシコの関税は、中国包囲網といった一貫した戦略をトランプ政権は欠くことを意味します。よって欧州や日本に対しても、米国の要求(貿易に無関係なことも含め)をのませる手段として、関税による脅しを用いるでしょう(接待外交は無意味)。日本株下落の背景には、そんな観測もあります。

米国はもちろん、日本にも打撃

今回標的とされたメキシコは自制を保っており、米国との対話に意欲的です。メキシコ経済は対米輸出に依存しているので(全輸出の約8割が米国向け)、関税は何としても避けたい、との事情もあります。

もし関税が発動されれば、メキシコも米国の農産物などに報復関税を課さざるを得ません。こうした応酬は、米国にも多大な影響を及ぼします。米国にとって、メキシコは中国に匹敵する貿易相手国だからです(図表2)。また、米国向けの製造拠点をメキシコに置く日系企業も、戦略の見直しを迫られます。

米国経済の変調がトランプ氏の翻意を促す、と予想

すでに米国では、製造業などに陰りがみられます。関税を懸念する消費者も増えています。中国やメキシコとの摩擦が続けば、来年前半までに米国は景気後退へ、とのシナリオが現実味を帯びるでしょう。

とはいえ投資家は、米国経済の一時的な変調を、前向きに捉えるべきかもしれません。関税権限の乱用などトランプ政権の暴走を止められるものがあるとすれば、それは何より「景気や株価のさらなる不調」だと言えるからです。予測困難なトランプ氏ですが、「実利第一」の点では、誰よりも明快なのです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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