オーストラリア総選挙:単純には喜べない、衝撃の結果に

2019/05/21 <>

「トランプ旋風」級の衝撃

選挙は民主政の一大イベントです。それはしばしば予想外の結果を生み、人々を喜ばせたり、落胆させたりします。5月18日に行われたオーストラリア総選挙(下院選)は、まさにそのような選挙でした。

世論調査に基づく予想では、与党連合(自由党・国民党)が敗北し野党(労働党)が政権奪還、との見方が圧倒的多数でした。それを覆し、与党連合が勝利したのです(定数151議席中、77議席獲得の見通し)。現地では、米国の大統領選でのトランプ氏勝利(2016年)になぞらえられるほどの衝撃です。

オーストラリア経済は不調

世論調査以外にも、与党の敗北予想を補強する多くの理由がありました。特に、昨年の後半から景気減速が目立っていることです(景気減速は現行政策への批判を強めるので、通常、与党に不利となる)。

景気を圧迫しているのは、大都市における住宅バブルの調整などです。これらの結果、今年の国内総生産(GDP)成長率は2%強にとどまると予想されます。この程度では、オーストラリアの場合、多くの人は成長を実感できません。移民増などにより、人口も年1.5%ほど増える国だからです(図表1)。

戦術の勝利

また、自由党内では派閥抗争が絶えません。同党を率いるモリソン氏も、昨年夏の「党内クーデター」を経て(首謀者ではなかったが)首相に就きました。これを受け、有権者の与党不信が高まりました。

そうした極めて不利な状況であったにもかかわらず、自由党が勝利し、労働党が敗北したのです。この驚くべき結果は、モリソン首相らの巧みな(しかしどの国でも定番の)選挙戦術が功を奏したため、と言えます。その第一は、「目先の利益を約束すること」です(今回の自由党の場合、所得税減税など)。

目先の経済vs 温暖化の阻止

第二の選挙戦術は、「むやみに脅威をあおる」というものです。実際、この総選挙で自由党候補者が用いたのは、もし労働党が政権に就いたら経済がひどいことになる、といった、野党への批判や中傷です。

労働党は、気候変動問題(図表2)を争点に据えました。ただ、温暖化の原因とされる二酸化炭素を排出するのは、特に石炭による火力発電です。よってクリーンエネルギー化を訴える労働党が政権に就いたら、国の重要産業である石炭に頼る人にとっては、たしかに「ひどい経済」になるかもしれません。

金融市場にはポジティブ、環境保護派などは失望

そして結局、炭鉱のさかんな選挙区で支持を集めたことが、与党連合の大きな勝因となりました。ただ、温暖化などへの問題意識が高い都市部では野党が健闘し、都市と地方の分断を浮き彫りにしました。

週明けの20日、オーストラリアの代表的な株価指数は2%近く上昇しました(ただ、豪ドルについては年内の利下げ観測などが上値を圧迫)。自由党の減税策や石炭産業優遇策などが好感されているのです。とはいえ、温暖化対策の遅延や国内の分断を踏まえると、この国の将来を楽観することはできません。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会