米中関税合戦: 「ディールの達人」の危険な流儀

2019/05/15 <>

トランプ氏の賭け

米中の通商関係を見直すための協議は、終盤で行き詰まっています。こうした中、トランプ米大統領は大きな賭けに出ました。中国製品への極端な関税を表明することで、中国に譲歩を迫っているのです。

それが成功する保証はありません。実際、中国は譲歩どころか報復関税を発表しました。関税引上げ合戦(図表1)が長期化した場合、米経済への打撃は必至です。景気がすぐに後退するとは考えにくいものの、貿易摩擦を嫌気した金融市場の混乱が実体経済にどう波及するのか、予想するのは困難です。

投資家としては、パニックは避けたい

そのような不確実性は、それ自体が市場心理を損ないます。米中の株価に翻弄されやすい日本株も、もちろん例外ではあり得ません。事実、連休明けの6営業日で、日経平均は約1,200円も下落しました。

とはいえ、米中双方とも協議継続の意向を示しています。よって投資家がパニックに陥るような状況ではなく、一般論としては様子見が望ましいと言えます。協議がまとまり関税が撤回されれば、株価などの反発が期待できるでしょう。ただし協議が完全に決裂した場合、一層の株価下落が見込まれます。

失敗の許されないディール

現時点では、協議がまとまる可能性(早ければ6月)の方が高そうです。高関税は自国に有利な条件を引き出すための手段にすぎず、米国でもその長期化を望む人は少ないからです(国粋主義者などは別)。

関税合戦で特に影響を受けるのは、米国の消費者や農家です(消費者は中国製品の値上げ、農家は中国向け輸出の減少(図表2)のため)。また、株価下落で資産が減る人の不満も高まっています。そのためトランプ氏は、通商協議を成立させ、「ディール(取引)の達人」であることを証明せねばなりません。

圧力に屈する必要はないが、中国にも譲歩が必要

中国には、体面が保たれる範囲で譲歩する用意があります。米国の表明する関税が全て発動された場合、景気減速は避けがたいからです(国内総生産(GDP)成長率は政府目標の6~6.5%を下回る公算)。

米国の不満は、膨大な対中貿易赤字のほか、政府の補助金、知的財産権の侵害、(中国に米企業が進出する際の)技術移転の強制、などについてです。中国には、そういった不満を和らげる措置が求められます。協議の成否は、そうした措置がどのような内容になれば米国が納得するのか、にかかっています。

目先の結末がどうあれ、危険な状態は続く

たしかに米中には、市場中心か国家主導か、という、経済構造に関する基本思想の違いがあります。しかしこれは、実際には「程度の差」にすぎません(例えば、米国も農業などに多額の補助金を給付)。

したがって双方に理性が残っている限り、歩み寄ることは十分可能です。それでも本件は、世界は現在、極めて危険な状態にあるという印象を残すでしょう。すなわち、一歩誤れば世界に大混乱をもたらす「賭け」や「瀬戸際戦術」を好んで使う大統領が、世界の盟主だったはずの大国を率いているのです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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