日銀のインフレ目標:誰が、なぜ望んでいるのか?

2019/03/18

国民は望んでいない

日本の失言王、と言えば、麻生財務相が挙げられます。2月にも、少子高齢化に関連し「(高齢者よりも)子どもを産まなかった方が問題」といった発言を行い、世間を騒がせました(のちに謝罪・撤回)。

しかしもちろん、麻生氏は多くの正しい発言も行っています。とりわけ、日銀の物価目標(年2%のインフレ率)についてです。3月には「(目標未達を)けしからん、と言っている国民は一人もいない」「こだわっているのは新聞記者と日銀だけ」「もう少し柔軟にやってもおかしくない」などと述べました。

目標達成には失敗

これらは全く正しい発言です。ただ、「2%」にこだわる勢力としては、ある種の「識者」を付け加えてもよいでしょう。インフレ目標は金融緩和で達成できる、と豪語していた「リフレ派」のことです。

この目標は、超金融緩和の導入(日銀による国債大量買入れなど、2013年4月~)後、2年で達成するはずでした。しかし6年近くを経た今、インフレ率は0%台です(図表1)。ただし、食料などは大きく値上がりしています(図表2)。よって消費者の立場からは、これ以上のインフレは迷惑なだけです。

なぜこだわるのか?

日銀やリフレ派も、インフレ目標達成は無理だと認識しているはずです。それでも「2%」に執着するのは、間違いを認めるのが恥ずかしいから、にすぎません。根底にあるのは、つまらない意地なのです。

より表層にあるのは、円高への恐怖感です。インフレ目標を例えば「1~2%」へ柔軟化した瞬間、円高が進み、日本株が暴落するだろう、と考えられているのです。たしかに、2%という高い目標を掲げているからこそ超金融緩和という円安・株高誘導策が続く、という思わくが、金融市場には残っています。

目標柔軟化で起こること

とはいえ日本への関心は、世界的にかなり低下しています。そのため日銀がインフレ目標を柔軟化したとしても、為替への影響は大きくならないかもしれません。これは、やってみなければわかりません。

円高が進んだとしても(1ドル=100円割れなど)、景気はむしろ良くなる可能性があります。日本株は一時下落するかもしれませんが、景気と株価は別物です。少なくとも、輸入品の下落で食料の値上がりが抑えられ、消費税増税の悪影響が緩和されます。それを「けしからん」と言う人はいないでしょう。

最も深刻な問題

円安・円高の良し悪しは一概に言えません。ただ、さらなるインフレは望まれていない、ということだけは、はっきりしています。だとすれば、インフレ目標を修正すること以外の選択肢はあり得ません。

しかし、一般国民の生活実感よりも保身と意地が優先され、軌道修正を頑なに拒み続ける、これが日本における金融政策の現状なのです。それを可能にしているのは、円安を望む一部の人や企業、政権の意向です。こうした修正力の欠如と特定勢力による政策のゆがみは、少子高齢化よりも深刻な問題です。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
しんきん投信「トピックス」   しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会

このページのトップへ