「貿易戦争」とドル安:米国が本当に負けるとき
中国の勝利か
貿易黒字の国が「勝ち」で赤字の国が「負け」、とトランプ米大統領は思っています。それが正しいとすれば、米中「貿易戦争」の勝敗は、昨年について言えば明白です。中国が勝ち、米国が負けたのです。
実際、米国の対中貿易赤字(輸出額-輸入額)は昨年、過去最大規模に膨らみました(図表1)。米国から中国への輸出が減った一方、中国からの輸入が増えたためです。昨年、トランプ政権は貿易赤字を減らすべく中国製品などに高関税をかけましたが、起こったのは、逆に貿易赤字の拡大だったのです。
米国を支えるドル本位制
しかし経済全体の観点から言うと、貿易収支で勝敗を判定するのは、ほとんど意味がありません。米国の貿易赤字は、自国の生産額よりも消費額の方が多い、という状況を表しているにすぎないからです。
言い換えれば、国内の生産では国民の旺盛な消費意欲を満たせないので、不足分を他国から輸入している、ということです。決済に用いられるのは、主にドルです。そして他国が受け取ったドルの多くは結局、米国の債券や株式に投資されます。そうした資金還流が、米国の財政や金融市場を支えています。
米国の特権と不安
つまり、まだ信用されるドルの発行国であるがゆえに、米国人は不相応な消費を行えます。これは「負け」どころか、米国に都合の良い仕組みです。国際語である英語の使用と並び、法外な特権と言えます。
ただ、貿易赤字にも問題があります。中国や日本は、過去の貿易黒字の結果、巨額の米国債(米政府の負債)を保有しています(図表2)。これらの国は、もしその気になれば米国の金融市場や実体経済を混乱に陥れることができるのです(米国債売却→国債価格下落(金利上昇)→米国の財政や景気を圧迫)。
貿易赤字を減らすには
また米国では、安価な中国製品との競争に敗れ、衰退した産業や地域もたしかに存在します。経済の法則としては自然なことですが、あまりに急激だったため、地域間の格差などを助長した面があります。
したがって、対中貿易赤字を減らしたい(輸出を増やし、輸入を減らす)と米政権が考えるのも無理はありません。しかし昨年の貿易統計は、高関税をかけても赤字は減らないことを証明しました。あるいは、増税などで米国の消費を減らし景気を悪くすれば輸入も減るはずですが、それは本末転倒です。
ドル安は米国の特権を害する
残る手段は、為替政策(特に他国の通貨安誘導を阻止)だけ、となります。自国通貨安は輸出に有利だからです(ただ、通貨安で輸入品が値上がりするため、賃金が上がらなければ国民の購買力は低下)。
そのため米国は今後、中国(と日本)の通貨安誘導を厳しく牽制するでしょう。しかし従来、「強いドル」政策がドルの信用、米国への資金還流、過剰消費を可能にしました。よって米国が「弱いドル(ドル安)」政策へ傾斜すれば、自ら衰退を早めます。そうなったときこそ、米国が負けたと言えるときです。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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