北朝鮮をめぐる政治経済:トランプ氏にノーベル平和賞?

2019/03/06 <>

対話路線は変わらず

トランプ米大統領はノーベル平和賞に輝くのでしょうか。朝鮮半島の非核化に成功すれば、その資格が生じるでしょう。しかし2月末の米朝首脳会談では、残念ながら合意文書の調印に至りませんでした。

それでも、金融市場はあまり反応していません(韓国株などは一時下落)。圧力一辺倒から対話重視へ、という昨年来の米国の路線は揺らいでいないからです。北朝鮮の方も、核やミサイルの実験を直ちに再開する意思はないようです。これらが確認されただけでも、今回の会談は有意義だったと評価できます。

強気でいられる理

同時に確認されたのは、経済制裁の大幅な解除を求める北朝鮮と、核施設の確実な廃棄を目指す米国との深い溝です。とはいえ双方とも自らの主張を貫いたので、自国民向けには「成功」と宣伝できます。

北朝鮮が強気でいられるのは、経済が崩壊寸前というほどではないからです。衛星写真、脱北者、韓国の諜報機関などによると、都市部では相応の文明生活が営まれているようです。極端なインフレも示されていません(図表1)。また、本当に経済危機が迫れば、難民流入を恐れる中国が支援するでしょう。

北朝鮮のポテンシャル

米国の方も、北朝鮮の独裁体制を倒す意図はなさそうです。トランプ氏は思想よりも実利を選ぶ人物です。会談でも金正恩氏に賛辞を送るとともに、北朝鮮の「すばらしい潜在力」に何度も言及しました。

たしかに北朝鮮は、完全な民主制へ移行せずとも、韓国のように(図表2)豊かな国となり得ます。高い教育水準や豊富な鉱物資源などの条件がそろっているからです。また、戦後の日本や現在の中国が示すとおり、一党支配は必ずしも高度成長を阻害しません(国民の人権も向上するかどうかは別問題)。

ベトナムが手本に

今次会談の開催地としてベトナムの首都ハノイが選ばれたのも、米朝双方の思いが込められています。いま東南アジアの中で最も経済が好調と言えるベトナムには、北朝鮮と似た点がいくつもあるからです。

何より、いまも共産党が主導する強権的な国であることです(北朝鮮とは程度が違いますが)。にもかかわらず段階的に自由化や国際化を進めることで、経済発展が可能になりました。さらに、かつては米国と憎み合っていた点も共通点です。その後ベトナムは米国と和解し、いまや米国は最大の輸出先です。

ノーベル賞にはまだ早い

北朝鮮の発展過程で米国が経済利権を得るというシナリオに、トランプ氏は夢中のようです。そうした実利優先のスタンスは、「人権」などを振りかざす従来の米政権よりも、米朝の緊張緩和に寄与します。

ただし、北朝鮮の非核化は急がなくてもよい、と同氏は明言しています。それは、核やミサイルの実験を再開しない限り、米国は北朝鮮の核保有を黙認する、と言っているのと同じです。トランプ氏によれば安倍首相が同氏をノーベル賞に推薦したとのことですが、これは少し早まりすぎだったようです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

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