統計不正とアベノミクス:そして何も信じられなくなるのか?
成長率は一応プラスだが
日本の経済統計は信用を失っています。そのため、昨年の実質国内総生産(GDP)がプラス成長を記録した(前年比0.7%。図表1)と聞いても、これをそのまま信じることは難しいかもしれません。
ただ、この率は、ある程度は信じてよいようにもみえます。政権に忖度するのであれば、もっと高くなるよう統計を操作するはずだからです。実際0.7%というのは、前政権時(平均1.9%)、現政権の当初目標(2%)、近隣諸国(韓国は昨年2.7%)のどれと比べても、数字上は「悪夢のような」低さです。
勤労統計問題には三つの論点
とはいえ、統計が信用を失ったのは当然です。最近、多くの統計に関し不正やミスが発覚しているからです。特に毎月勤労統計(厚生労働省作成)という、平均賃金などにかかわる重要統計についてです。
この問題を追及するには、性質や原因の違う三つの論点に分けるべきです。そのうち二つは、2004年以降、本来の方法とは異なる方法で賃金などが調査されていた、という不正に起因します(東京都における従業員500人以上の事業所を全て調査すべきところ、実際には約3分の1の事業所だけ抽出調査)。
なぜか昨年分だけ補正され、統計上の賃金上昇率が高めに
このため平均賃金は、本来の値(全数調査による値)よりも、低めに算出・発表されていました。500人以上の規模を有する大企業は賃金が高めですが、その一部の分しか算入されていなかったためです。
結果、平均賃金から算定・給付される雇用保険などの金額が不当に小さかった、というのが一点目です。第二は、昨年1月分から密かに補正されていたため(全数調査に近い結果となるよう処理)、昨年の賃金上昇率が高く出ていた点です(図表2-①。発覚後②へ修正)。賃金増を示したかったのでしょうか。
さらに調査対象などの変更で、賃金上昇率が不自然にアップ
もう一つの論点は、これも昨年1月、別の変更が行われた点です。調査対象となる事業所の半分が入れ替えられるとともに、大企業の比率が高められたのです(やはり賃金上昇率を高くみせたいため?)。
ただ、情勢変化に伴う入れ替えや比率変更は、不正とは言い切れません。また、変更後の数値、いわば正式値に加え、対象や比率を一定とした名目賃金上昇率も、参考値として(目立たないようにですが)公表されています(正式値より相当低め)。ところがこの参考値に基づく実質賃金上昇率は、未公表です。
圧力か忖度か単なるミスか?
もっとも、実質賃金上昇率はすぐに概算できます(簡便法として名目賃金上昇率から物価上昇率を差し引く)。こうして算出される昨年の率は、前年比でマイナス基調だったことが明らかです(図表2-③)
それが未公表なのは、政権への厚労省の忖度のためかもしれません。実質賃金(=人々の購買力)の減少は、GDP成長率の低下と並び、アベノミクスの最大の弱点だからです。このような経緯をみると、0.7%という低い成長率ですら、実態より嵩上げされているのでは?との疑惑を呼んでもやむを得ません。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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