膠着感が強まる人民元が示唆するもの

2019/10/25

今週の国内株市場ですが、これまでのところ、日経平均が地味に連日で年初来高値を更新するなど、比較的堅調に推移しています。ただし、先週の取引時間中につけた高値(22,649円)を抜け切れていないほか、東証1部の売買高も少なく、「閑散に売りなし」となっており、力強さは感じられません。

 

日米の企業決算にらみの相場地合いとなっていますが、先日、米中協議が一部合意と報じられ、米国の決算シーズンも順調な滑り出しを見せる中でも、なかなか相場環境は同意付かない状況が続いています。中国人民元市場についても、「1米ドル=7人民元」をちょっと超えた水準での膠着感が強まっています。いわゆる人民元安は米中摩擦の悪化に伴って進行してきましたが、一部合意の材料を受けてもあまり変わっていないことになります。

 

周知のとおり、人民元は米中摩擦を構成する項目のひとつです。8月には米国が中国を為替操作国に指定したほか、先日の合意でも「中国は人民元における為替政策の透明性を高める」という内容が盛り込まれています。今後も米中協議を継続していく上で、貿易制裁関税の影響を相殺するための人民元安誘導は米国の配慮もあって難しくなっているようです。

 

とはいえ、実際のところは人民元安への圧力は高まっていると言えます。先週発表された7-9月期GDPは前年同期比で+6%の伸びにとどまりました。中国は2020年のGDP総額を2010年比で倍増させるという経済目標を掲げていますが、そのためには+6.2%の成長が必要とされており、黄色信号が灯った格好です。そのため、今回のGDP発表を受けた上海株市場があまり動いていないのも、景気刺激策への期待があるからと思われます。

 

しかし、中国はすでに多くの景気刺激策を打ち出していますし、さらなる財政出動を伴う政策は課題とされている債務問題を悪化させるほか、金融緩和によるマネーも主に債務の借り換えに流れてしまい、政策効果が次第に薄れていっています。さらに、米中摩擦の長期化に合わせて国内製造業の海外移転も進行しています。

 

別の見方をすれば、ここ数カ月の人民元相場の膠着感は、景気減速や債務増加などによる中国からの資本流出の加速を防ぐほか、米国への配慮の中で「人民元安の圧力が強まる中で許容される為替水準を探りながら維持させている」と見ることができます。国内の事情は人民元安にしたいところだが、米国からの批判や2015年夏の「チャイナ・ショック」時の資本流出の教訓を考えると難しいという様子がうかがえます。

 

このまま米中協議に進展がないと、12月には残りの制裁関税(第4弾の2回目)の発動が控えています。さらなる人民元安はチャイナ・ショックの再来と見做される可能性があるため、中国当局の難しい舵取りはしばらく続きそうです。

 

 

 

 

 

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