中国、構造調整に成果が現れ、一旦休止して経済成長にも配慮

2019/02/01

 

中国景気の減速は習政権が進める構造調整が主因であり、市場の中国懸念は行き過ぎと考えます

市場の警戒は、貿易摩擦に伴う中国景気が焦点に

昨年10月以降、市場は大荒れで、トランプ米大統領は「中国経済に問題が起きているとしたら、私(が仕掛けた関税)が原因だ」(12月13日)と豪語しています。中国小売売上高(11月)が「15年半ぶり低水準」、さらに2018年中国GDP成長率6.6%が「28年ぶり低水準」とそれぞれ報道され、「中国発の暴落シナリオ」に市場は警戒を強めています。

小売売上高は、当初から鈍化すると見込まれていた

中国小売売上高については、2桁増(前年同月比)でしたが、昨夏からは10%を割り込み、確かに減速が鮮明です。これは単価の大きな自動車の販売低迷が響いたようです。

しかし自動車販売はもともと、2017年末に期限切れした小型車(1600cc以下)購入減税措置で需要が先食いされ反動減が見込まれていました。しかも自動車保有台数が世界2位となり従来のハイペースの販売増維持は難しいとも指摘されていました(中国国家発展改革委員会報道官発言、2018年11月15日)。さらに整備が追いつかない道路容量など大都市の渋滞問題は大気汚染問題でもあり、排ガス規制(欧州より一部厳しい「国6」基準)が強化されました(例えば広東省広州市は昨夏から非広州市ナンバー車両乗り入れを規制)。このように自動車販売は、景気後退とは無縁の様子です。

成長低下原因その1:シャドーバンキング抑制策

中国GDP成長率については、日本銀行の黒田総裁が「中国経済は、そもそも成長率が長期的に趨勢的な低下傾向にあることは、皆認めている」「大幅な景気後退は予想されていない」と、市場に冷静な行動を求めました(12月20日)。

IMF(国際通貨基金)も「2018年成長率6.6%は、IMFの予測と一致しており、中国経済に差し迫った問題が起きていると思わない」(チーフエコノミストのギータ・ゴピナート氏、1月21日)と冷静です。「持続困難なバブル」とIMF等が問題視した2011年頃からの非金融企業部門での債務急増という中国経済の脆弱性の高まりに対し、習政権が2016年以降、デレバレッジ(過剰債務削減)を最重要政策とし「サプライサイド(供給側)の構造改革」を推進中だからです。

6.6%となった主因をIMFは構造調整のためとみて「(a)シャドーバンキング(影の銀行)抑制や(b)地方政府の簿外債務削減を狙った金融規制強化による経済活動の鈍化」と判断しています。(a)シャドーバンキングの抑制については、銀行預金金利を上回る利率を謳いインターネット上で個人から集めた資金を、個人や中小零細企業にオンライン融通するピア・ツー・ピア(P2P)金融業者に、昨夏、規制が強化されました。2011年頃から急拡大した巨大な消費者金融かつ商工ローン市場における急激な信用収縮で、自動車販売も含め、耐久消費財需要に一定の影響を与えた模様です。

成長低下原因その2:地方政府等の債務削減

もう一つは、地方国有企業がインフラ整備や製鉄所設備等で投資資金を調達した時の債務保証などで、地方政府の簿外債務が膨張していました。中国では「非金融企業部門債務の一部は実質的に政府部門債務」と言われるほど地方国有企業と地方政府の役割分担は曖昧です。そこで(b)地方政府の簿外債務を削減する構造調整が進められました。この結果、資金調達も制限されインフラ投資(固定資産投資)は減速しGDPを下押しする要因となりました。

例えば基幹産業の鉄鋼業界では、粗鋼生産能力を(日本の1年半の生産量に匹敵する)1億5千万トン削減する5ヵ年計画(2016-20年)を通じ債務削減を推進しました。社債デフォルト(債務不履行)も容認する金融引き締めで、乱立する地方政府系の国有鉄鋼メーカーなど巨額の負債を抱える「ゾンビ企業」の整理統合が進められました。

習政権は構造調整を一旦休止

ところが2019年の政策を決める中央経済工作会議(昨年12月)は、金融政策から景気に「中立」との文言を削除し、適度な緩和策へ軌道修正し始めました。社債デフォルト急増やP2P規制で資金調達難の中小企業支援策です。財政政策は「積極的」とし、地方政府に資金調達の制限をゆるめインフラ投資を再開させ、 P2P規制に伴う消費下支えには個人所得税減税を充てました。構造調整は一旦休止です。

実はすでに構造調整の成果が、鉄鉱石価格に表れています。リーマンショック対応の「四兆元の景気対策」終了で1トン当たり180ドル(2011年)から40ドル割れ(2015年末)へ下落した後、現状70ドル台に持ち直しています(図表)。生産能力削減が2018年中に2年前倒しで達成された需給改善の奏功です。中国発の世界株価暴落となった2015年当時と比べ構造調整が進んで中国経済の脆弱性は改善されつつあり、最近の市場の中国懸念は行き過ぎと考えられます。

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明治安田アセットマネジメント株式会社
明治安田アセット/ストラテジストの眼   明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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